『愛にイナズマ』ネタバレ

 この三連休も映画三昧。週末はもともと映画か美術館だったが、円安、コロナの影響でよい美術展が減った一方で、こと今週に限っては観たい映画が多すぎる。そうでなくても、観たいのに観られていない映画もあり、観たけどここに書きもらす映画もありってことが増えてきた。
 『愛にイナズマ』は、2020年の『生きちゃった』から2021年の『茜色に焼かれる』、2023年の『月』と続いた、大きなテーマの映画のシリーズがいったん完結して、石井裕也監督の個人史に近い物語世界で、なんならデビュー作の『剥き出しにっぽん』にも通じるような空気感のある、筆の運びの速いシナリオで、オリジナルなストーリーを、キャラの立った登場人物たちとともに一気呵成に駆け抜けた痛快な家族ドラマになっている。
 キャストも奇跡的にそろったらしく、松岡茉優窪田正孝池松壮亮若葉竜也、仲野太賀、三浦貴大MEGUMI、芹澤興人、益岡徹佐藤浩市、に加えて、比較的小さな役にも信じられないような良い役者さんが多数出演している。北村有起哉趣里高良健吾鶴見辰吾さんなんて声だけの出演。贅沢。
 主人公の松岡茉優は、駆け出しの映画監督で、いつもカメラを持ち歩いている。4:3の彼女のカメラの映像が、客観的な視点に変わるとシネスコの横長の画面に変わる。私、ふだんは画面サイズが変わるのに気がつかないタチなんだが、ここまできっぱり変えられるとさすがにわかる。まるで、文中のト書きと台詞くらいはっきりと変わる。何なら画質も変わってたかもしれない。
 もうひとつは、主人公の「赤」へのこだわり。画角の変化が示している、虚構と現実の対立を超えるものとして「赤」という色が感覚されていると思う。単に色であるのではなく「赤裸々」という言葉のイメージに近い、もっとダイレクトに訴えかけてくるシンボリックな契機として「赤」が捉えられているようだ。
 MEGUMIは20年前にグラビアアイドルとして活躍したのが信じられないくらいいい役者さんになったなぁと思う。小池栄子とこの人はその頃どちらもイエローキャブのタレントさんだった。今や、小池栄子大河ドラマの主役だしね。
 MEGUMI三浦貴大とともに今回はイラッとするやな奴。石井裕也監督は『月』や『茜色に焼かれる』でも、この手のイラッとさせる奴の造形がバツグンにうまい。『茜色に焼かれる』では鶴見辰吾と芹澤興人がやっていた。三浦貴大は『エルピス』に続いてまたこの手の役なので、頭では分かっていても、あの顔はしばらく見たくないくらいだ。
 映画業界が舞台だけにこういう輩がホントにいるんだろうなと思ってもしかたないところ。ディテールがリアルすぎる。逆に、池松壮亮が務める一流企業のディテールはけっこう雑だと思う。
 「雑」で思い出すのも何だが、2019年に公開された『台風家族』って映画があった。草彅剛がSMAP解散のあと『ミッドナイトスワン』に出る前に主演した映画だったが、新井浩文が出演していたので、公開まですったもんだがあった。あの映画とモチーフだけ似ている。キャストもMEGUMI若葉竜也は共通している。たぶんあの映画もこんなふうでありたかったんじゃないかと思った。観客を物語の世界に引き込めるかどうか。映画に語らせる術に、やっぱり石井裕也監督は優れていると感じた。


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