『バービー』

 主演のマーゴット・ロビーは製作にも関わっている。彼女は『I, Tonya』にも主演とともに製作にも加わっている。トーニャ・ハーディングは、たぶん、日本で思われてる以上にアメリカでは悪役だと思うのだ。そこにあえてフォーカスする視点に表現者としての信頼感がある。
 そういう人が製作、主演する『バービー』。しかも、脚本はグレタ・ガーウィグノア・バームバックが共同執筆した。監督はグレタ・ガーウィグ
 ノア・バームバック作品では『ヤング・アダルト・ニューヨーク』、『マイヤーウィッツ家の人々 (改訂版)』が好き。『マリッジ・ストーリー』、『ホワイト・ノイズ』もまあ好きだけど上の2作ほどではない。
 『バービー』はそもそもノア・バームバック監督作品ではないし、監督のグレタ・ガーウィグをさしおいて、共同脚本のノア・バームバックにふれてしまうあたりが、うっすら『バービー』のテーマにひっかかっている気もするが、グレタ・ガーウィグ作品は今回が初めてなのでそれは許していただくしかない。
 バービーはおそらく、アメリカの女性にとっては特に、家族の一員なのだろう。だとすれば、それは、これまでノア・バームバックが描いてきたテーマだと言える。そして、それが今作が世界中でヒットしている要因のひとつなんだろうと思う。バービーはまるでマイヤーウィッツ家の人々のように気まずい再会を果たす。巷間言われているようなフェミニズムよりも、ノア・バームバック的な家族の物語だと思う方が味わい深い気がする。
 バービーたちが暮らすバービーランドからバービーとケンが抜け出してくるのだけれど、ケンをライアン・ゴズリングが、バービーを作ったマテル社のCEOをウィル・フェレルが演じている。
 ライアン・ゴズリングは『ドライヴ』とか『ファースト・マン』のシリアスな役もいいけど、『ナイス・ガイ』のコミカルな役もすごくよい。イケメンで、なおかつ、このコミカルな感じが出せる役者って、確かに、このライアン・ゴズリングに加えて、ベン・スティラーアダム・ドライバー、と、なぜかノア・バームバック人脈と重なる。他には、ジェイク・ギレンホールとか、もちろん、ニコラス・ケイジブラッドリー・クーパー、とか言い出すと少しずつズレてく気がするなぁ。
 ウィル・フェレルも、もちろんその1人だと思う。イケメンかどうかわからないけど、『奥さまは魔女』のダーリン役は最高だった。ただ、ここのマテル社のキャストはもっと怖くても面白かったかも。マトリックスの世界観ともかぶってるのだし。
 設定がおもしろすぎて、あれこれと色々と連想が走っていってしまう。バービーのレアアイテムが、あざとく挟みこまれるシーンなんか見てると、これって『シン・仮面ライダー』でもあるんだよなぁと思った。
 伊集院光が『シン・仮面ライダー』について熱く語っていたように、この『バービー』に熱くなる世代が存在しても驚かない。
 ただ、日本にはリカちゃん人形という高い非関税障壁があるので、大ヒットしている他の地域とは文化的背景が違うのだが、しかし、思い返してみると、確かに女の子たちはああした人形で遊んでいた。
 男の子たちは、そこは自分たちには理解できない領域だと、ごく自然に了解していた気がする。
 あの頃の女の子たちにはバービーランドはリアルに存在していたはずなのである。というより、バービーランド以上にリアルなものは存在していなかったはずだ。
 成長した彼女たちがそれ以上にリアルなものを手に入れたかどうか心もとない気がする。
 伊東静雄の「河辺の歌」を思い出してしまうけど、引用するのもどうかと思うので、青空文庫でも参照してください。

www.aozora.gr.jp


www.youtube.com



www.youtube.com