サミングアップ

サミング・アップ (岩波文庫)

サミング・アップ (岩波文庫)

昨日は、ひどく疲れていたらしく、一旦仕事にでたものの、早々に早退して(早がみっつも)ぐたーっとしていた。そして、ぐたーっとしながら、サマセット・モームの『サミングアップ』を読んだ。心の平静を取り戻す読書に、モームは最適である。
サミングアップのサムはエクセルで一番簡単な関数、あの「SUM」である。かつては、『要約すると』という題で出版されていたらしい。「要するに」といいながら、全然要約していないというジョークなんだろう。
モームにとって文章の理想は、明快、簡潔、音調のよさ、だそうだ。文章について書かれているこのあたりのくだりは当然ながら実に鋭い。モームの文章って一言で言うと、実も蓋もないことを歯に衣着せずに語る小気味よさだと思う。
人間観察の鋭さも、モームの魅力の一つである。ロンドンで医者として過ごした三年間に「人間がいだきうる、ほとんどすべての感情を目撃できたと、信じている」と書いている。
でも、モームらしいなぁと思うのは、次のようなくだり。

あるとき、外国で親切なご婦人が、あちこち案内してあげましょうというので、ドライブに連れて行ってもらったのを覚えている。この婦人の会話は全部分かり切ったことばかりで、それに陳腐な語句ばかり使うので、聞いたことを覚えるのは諦めた。しかし、彼女が言ったある語句が、どんな名言にも劣らず、私の頭に残っている。我々が海辺のそばの並んだ家並みを通過したとき、彼女は言ったーーー「あれはね、こう言ってお分かりかどうか分からないけど、週末用の別荘ですわ。つまり、人が土曜日にいらして、月曜日に帰って行かれる別荘です。」これを聞き損ったら、さぞ残念に思ったことだろう。

こういうのが、心の平静を取り戻してくれるのだ。
わたしが知っているモームは、小説家としてのモームだけであるが、若くして劇作家として成功した回想部分も興味深かった。去年、読んだ『劇場』は、こういう経験を基に書かれているのだろう。
久しぶりに、一日ごろごろして本が読めて、良い骨休めになった。気がついてみると小正月、正月の疲れが出るころではあったんだろう。昔の人の習慣は、やはり、自然の理にかなっているのか。