旨いパンの記憶

昨日、新しい試みとして、仕事帰りにかしわ台の駅まで自転車で行ってみた。なんといっても、最寄の駅はかしわ台なのだし、海老名へはそこから電車で行ってもいいわけだった。
ところで、わたしがこのアパートを借りた不動産会社エイブルが、ニュースのネタになっていた。公正取引委員会から、排除命令を受けたそうだ。朝日新聞のサイトから丸写しすると、

違反内容は、同社のウェブサイトや賃貸住宅情報誌において、徒歩26分要する物件を16分としたり、すでに取引の対象となり得ない物件を、賃貸できるように表示したことなど。

わたしのところからかしわ台まで歩いて50分かかる。上の記事を読んで思い出したが、そういえば、最初聞いた話とは違っている。当初、駅の利用はそんなに重要ではなかった。なにしろ、ほぼ同時にKLXを買ったし、ガソリンもまだまともな値段だったし、入居した翌日に給湯装置が壊れたので、クレームはそちらの方に向かった。
しかし、最寄は最寄。海老名よりかしわ台の方が近いし、一番ありがたいのは道がなだらかなこと。自転車は相鉄ローゼンの駐輪場に停めればいい。これからはこれだわ。
ロシアから帰ってしばらく、日本のパンが食えなくなってしまったことは、ずっと前に書いた気がする。日本のパンは、パンというより、麦で作った餅みたいなものだ。
それから今日に至るまで、まともに旨いといえるパンには出会えていないが、しかし、人間というものは慣れるものなのである。当時はシャラポワみたいなロシア美人に目移りしていたのに、引越しのとき、思い出の密輸品が出てきたが、今や、体が反応さえしない。
そうはいっても、本当に旨いパンの記憶は、パンを食うたびに慢性的な欲求不満になって蓄積する。昨日に引き続いて「BRUTUS」のネタになるけれど、それで、雑誌のパン特集などに手を出すことになるわけだ。
スティーヴン・L・カプラン教授のパンのおいしさの基準の中で、私が気に入ったのは、
「握ってパリパリと皮が壊れ」
というところ。それ。まさにそれ。市販のフランスパンなんて皮も中身も一緒でしょ。
そして『Le Guide Des Boulangeries De Paris』というパリのパン格付け本の著者ミシェル&オーギュスタンによれば、中身(クラムというらしい)については、大小の気泡がランダムに美しく「野性的に」(カプラン教授談)散らばっていること。
逆に、気泡がなく、生地だけが連なっているコンタクト(密な部分)があると、口の中でもっちゃりする。わたしの感覚では日本のパンのほとんどがこれだ。「気泡は発酵の記憶装置」というのがカプラン教授の言葉である。
日本の有名パン屋のバゲットをフランスに運び、ミシェル&オーギュスタンに評価してもらっているが、評価そのものより、それに対する店側の反応の方が面白い。
痛いところをつかると、人はみな似たような反応をするものである。
横浜限定のリカちゃん人形が手に持っているのは、ポンパドールというパン屋のバゲットだ。海老名にも支店があるが、このバゲットは少なくとも、「握ってパリパリと皮が壊れ」る。今のところ、ここのバゲットと、それからサワーブロートが気に入っている。
サワーブロートは、ロシアのパンに近い感じ。ロシア人はバターではなくクリームチーズを塗って食べていた。