牛の絵

今年の展覧会の中でも秋野不矩展は印象深いものであった。
あの展覧会について書いた記事に「牛の絵」という検索で引っかかった人がいるみたい。はて何か知らむと首を傾げてみると、なるほど年賀状のネタ探しだと思い当たった。
丑年の年賀状に「ガンガー」や「渡河」を使うとは、なかなかアカデミック。長寿の画家の作品でもあるし、新年を寿ぐに悪くないかもしれない。
今年見た牛の絵ということでいえば、ピカソミノタウロスもそのひとつにあげられる。上半身が牛、下半身が人間の男が森の中で女を組み敷いていた。
年の瀬、そろそろ今年のベストテンなどという企画が目につき始めた。週刊文春2008年ミステリーベスト10国内部門一位は湊かなえの『告白』だった。デビュー作でっせ。そうなんかなぁ。そんな凝ったつくりではなかったが。
3位の柳広司ジョーカー・ゲーム』は、買おうと思ったときには品切れだった。
私のとっている新聞に連載の「服部宏のシネマパラダイス」でも、個人的な'08年日本映画ベストがあげられている。
1、実録・連合赤軍 あさま山荘への道程
2、接吻
3、休暇
4、ぐるりのこと。
5、おくりびと
6、トウキョウソナタ
7、百万円と苦虫女
8、歩いても 歩いても
9、その木戸を通って
10、純喫茶磯辺

だそうだ。

今年の日本映画は面白かった。この中で私が見たのは、「接吻」、「ぐるりのこと。」、「トウキョウソナタ」、「歩いても 歩いても」だが、この中で最も印象が深いのは、「ぐるりのこと。」だ。これはダントツ。そして、「トウキョウソナタ」「接吻」「歩いても 歩いても」の順になるだろうか。
各映画の紹介記事では書かなかった悪口を書くならば、「トウキョウソナタ」では、三人の男のエピソードはよかった。ただ、それに対して小泉今日子演ずる母のエピソードの詰めが少し甘かったと思っている。母が最後に大きく破綻してもよかったはずだと思うのだ。つまり、彼女があのまま退場したらどうだったろうか。最後のピアノのシーン、香川照之ただ一人だったら、もっと切実な味わいにならなかったろうか。
「接吻」は確かに衝撃的でありながら、誰もが心の底で共鳴する狂気を描いていると思う。だから、理解不能だけれど引き込まれてしまう。でもやっぱり理解不能なんだよねぇ。
「歩いても 歩いても」は、破綻がなさすぎる。もっと期待を裏切る予想外の展開があってくれてもよかった。もちろんこれは贅沢な要求ではある。日が暮れかかったころに訪ねてきた長男が助けた男の子、それから夜になってからのエピソードは、昼間の出来事と対照的で緊張感があった。いい映画だった。
あれ?悪口になってない。あえていえば、悪口もいえないところがあの映画の欠点かな。

で、この評論家があげていない映画で、ぜひとも推したいのは「アフタースクール」、「グーグーだって猫である」、「デトロイトメタルシティー」。この三つは入らないとおかしいでしょう。
そして個人的には「たみおのしあわせ」も忘れがたい。ラストにもうひとひねりあればもっとよかったです。私はラストシーンにそんなに重きを置かないのですけどね。