「国策捜査」という言葉は佐藤優の本が火元だが、元はといえば、彼を取り調べた検察官自身の口から出た言葉である。
佐藤優は週刊プレイボーイに「セカイを見破る読書術」という書評欄をもっている。今週は「草食系男子がわかる2冊」。鳩の話が面白かったので、ちょっと紹介したい。
「ソロモンの指輪」の著者、コンラート・ローレンツは「鳩」のような草食系のほうがタカやカラスのような肉食系より残虐になると述べているそうだ。
以下、孫引き。
(カラスは同族の目玉を鋭いくちばしで攻撃することのない抑制機能をもっていることについて説明した後、)
したがって、鳩のようにくちばしが弱く、つつかれても羽毛が二、三本ぬける程度の武器しかもたぬ鳥同士なら、そのような抑制なしでも十分にやってゆけるわけだ。 負けたと感じたほうの鳩は、相手から第二の攻撃が加えられる前に、さっさと逃げ出してしまう。
けれど、せまい檻のように不自然な条件のもとでは、負けた鳩はすばやく逃れる可能性を封じられてしまう。
そこでいよいよ、この鳩には仲間を傷つけ苛むことを妨げる抑制が欠けていることが、完全に露呈されてしまうのだ。
きわめて多くの「平和的な」草食動物は、やはりこのような抑制をもっていない。
「鳩」のような草食系が管理職になると、極端に強圧的になったり、ねちねち陰湿ないじめをしたりするのは、他者攻撃に関して抑制機能を欠いているからだと書いている。動物行動学の話だが。
政治家に、生まれたての赤ん坊のような純粋さを期待する人たちにとっては、政治資金規正法の虚偽記載だけでも気絶するほどの巨悪なのかもしれない。それが、なぜか野党第一党党首の公設第一秘書だけに嫌疑がかけられ、定額給付金関連法案を衆議院で三分の二条項を使って再議決するその前夜というタイミングに逮捕されても、そういう人たちは、何の底意も感じないのだろう。
そういう天使のような人たちには悪いが、今回の捜査には検察内部からも「なぜこのタイミングで」という疑問や批判の声が上がっている、異常事態なのである。
だからそれについて「国策捜査ではないか」という批判が一般に噴出するのは当然だが、そうなると、「国策捜査か否か」という議論に話が矮小化されてしまう。
「国策捜査」という言葉が独り歩きしてかえって実態が見えなくなるのは好ましくない。
すこし視野を広げてみると、大久保秘書の起訴、小沢一郎の会見という、その折も折り、早速以下のような動きがあった。
麻生太郎首相は25日、「内閣人事局」の局長職に関して甘利明行政改革担当相、自民党の中馬弘毅行政改革推進本部長と協議し、局長職を官房副長官に兼職させ、新たな独立したポストとはしないことで党内をまとめるよう指示した。しかし、党側は兼職ではなく時の政権の判断で専任の局長も置けるようにすべきだと引き続き主張しており、調整は難航しそうだ。
中馬氏は「政府の方針は、麻生首相の強い意向を反映したものだ」と了承するよう求めた(同上)
そうである。
また、
地方分権改革推進委員会(委員長・丹羽宇一郎伊藤忠商事会長)が25日に開いた会合で、政府が決めた出先機関改革の「工程表」について「勧告の内容を全く反映していない」との反発が相次いだ。丹羽委員長は「政府は第2次勧告の精神をきちんと守るはず」と述べ、次回の会合で、出先機関の統廃合と人員削減を実現するよう、委員会から政府に改めて要請する意向を示した。
これらのことが、昨日の小沢一郎会見と間髪をいれぬタイミングで行なわれたことなのだ。
そこに官僚と麻生政権の意図が見抜けないだろうか。官僚は着々と既得権益の防波堤を築いている。