古道具その行き先 −坂田和實の40年−

knockeye2012-11-20

 きのうのつづきになってしまうのだけれど、一晩寝た翌朝、「カミハテ商店」を思い出したとき、怖さがワッと来た。
 よく考えたら、わたしたち日本人は高橋恵子という女優になじみがあって、老け顔を作ってるとか、あえて方言をしゃべってるとかがわかるので、まだ衝撃が緩和されるのかもしれない。海外の人にとっては老いの坂にかかり始めた美女にしかみえないだろうし、ほんとは、いろんな予備知識をそぎおとすと、日本人にとってもそうなのだから、あの映画は、ほんとは、そうとうこわい。上映技師がフィルムチェンジをミスるのもわかる。
 あのシーンには観客もつりこまれていた。カメラの位置と遠さが絶妙だと思う。あの高さから店の中を映したのはあのシーンだけじゃなかったかと思う。
 それは他のシーンにも言えて、寺島進の後ろ姿をじっととらえたシーンなんて、あの遠さでなければ、感情移入してしまうはず。
 最もこわくてうつくしいシーンについては、たぶんあえて望遠レンズの圧縮感を利用している。
 怖い。カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭で3名が満点の評価をつけたのもわかる。
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 ユーロスペースでの上映が午後2時からだったので、ひさしぶりに松濤美術館に。
 「古道具その行き先 −坂田和實の40年−」という展覧会。
 ポスターに使われている室町時代のこま犬が最高だったので。

 以前、横浜そごうで、尾久彰三の「観じる民藝」という展覧会を観た時のこま犬も可愛かったが、これはそれに匹敵するか。そういえば、「骨董誕生」もこの松濤美術館だった。
 図録も紙質や写真の粒子の粗さにまでこだわったこころにくさに敬意を表して購入した。なんといっても入場料が300円と格安なので、いいんじゃないのという。
 白洲正子旧蔵の奈良朝の土管とか、村上隆所蔵の李朝の床板とかもありますよ。ただ、これはみなさまの気を惹こうと書いているだけで、本質はそこにはない。でも、白洲正子とか尾久彰三とかの名前にアンテナが反応する人は見に出向いて損はない展覧会。
 ついでに、それこそまったく本質的でない話だが、15世紀イタリアの木製彩色キリスト像というのが展示されていた。それで思い出したのだけれど、正宗白鳥がなにかに書いていたことで、子どものころに往生要集かなにかの地獄の絵を見せられてそれがトラウマ(今の言葉でいうと)になった、みたいなことを書いていたが、キリスト像というのも、頭には茨の冠、手足は釘で打ち付けられて、脇腹から血を流している。それが、教会の奥の一番高いところから見下ろしているわけで、これ、往生要集の地獄絵巻とどっちがどうといえないじゃないかと、実物を見て思った。よく考えたら、わたくしいままでキリスト像の実物を見たことなかった。