「さよなら人類」ほか

大竹伸朗 ‘UNTITLED’

 先週末の話。ヱビス・ガーデンシネマで「さよなら人類」という映画を観た。これ、第71回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞なんだけど、前回、第70回の金獅子賞を憶えてる?。「ローマ環状線 めぐりゆく人生たち」で、ドキュメンタリー初の金獅子賞だったんだけど、あれに勝るとも劣らない問題作。
 今回のは、オフビートのモンティ・パイソンという感じ。恋するダンス教師とか、ところどころは笑えるけど、構成が散漫で加速しない。これだと、レオス・カラックスの「ホーリー・モータース」とか、松本人志の「R100」の方が断然スリリングですよ。
 映画が始まるまで時間があったので、山種美術館で「琳派と秋の彩り」って、自分で「彩り」つて言っちゃってる展覧会を観に行った。
 ガーデンシネマから山種美術館ってルートを歩いたことがなかった。グーグルマップがなければ到底分からなかったと思う。恵比寿の駅から山種美術館までの道は、なだらかな上り坂だけど、ガーデンシネマから山種美術館は上ったり下ったり、ほんとはこの辺、こんな感じの谷戸だったのかなと、ブラタモリみたいなことを思った。それでふと、東京で生まれて東京で育って、東京で死ぬ人たちは、たぶん、これが見えないんだろうなと、善し悪しはともかく、これが見えない人たちっていうイメージが頭の中に浮かんで、そのつまんなさに気が重くなった。でも、よく晴れて、いい天気だったから、そのせいもあったろうと思う。
 この週末、この展覧会もあわせて、よっつの美術展に行った。新宿の東郷青児記念美術館で、「もうひとつの輝き 最後の印象派」っていうのと、横浜そごう美術館で「明治有田 超絶の美」っていうのと、ワタリウム美術館で「古今東西100人展」っていうの。
 バッラバラでしょ。ただ、ひとつだけ共通してるのは、全部オムニバスっていうところ。総集編だね。で、思ったのは、こういう見方しちゃうと、ワタリウムの現代美術も、やっぱ、絵なんだなって、いうのも可笑しいんだけど、個人展で観に行くと、こむずかしく考えちゃう現代美術なので、絵が直接には来ない。コトバが先に立って、後に残る。
 写真とジャポニズムが西洋絵画に与えたジャイアント・インパクトが、西洋だけでなく、日本の絵画もゆるがした結果、印象派以降の画家たちは、「絵とは何か」というコトバの壁を越え、「これは絵か?」というコトバの森を抜けて、絵を描かなければならなくなったと、観るものは勝手に勘ぐりがちだけど、でも、絵描きって、結局、もっとプリミティブで個人的な衝動で絵を描いているんだろうと思う。ジャイアント・インパクトがもたらしたのは自由だったのであって、新たな縛りが加わったのではない。コトバじゃないものがそこになきゃつまんない。
 山種美術館は、明治以降の日本画の良いものが多く、今回も名品揃いだったんだが、個人的に一番気に入ったのは、速水御舟の「山科秋」。

 山種美術館が所蔵している「炎舞」などを速水御舟の代表作だとすれば、これは「らしくない」ということになるかも。求道者みたいに語られることの多い速水御舟の、こういう抒情が何か秋の気配。池田遙邨の「まっすぐな道でさびしいー山頭火ー」もよいけど、これは、種田山頭火の自由律俳句の手柄でしょう。
 「もうひとつの輝き 最後の印象派 1900-20′s Paris」は、エミール・クラウスが典型的だと思うんだけど、印象派のその先を考えたときに、ナビ派とか、フォービズムとか、キュビズムとか、そういう進み方をしなかった人たちで、たとえば、印象派に「問い」を見た人と「答え」を見た人の違いとでも言おうか、当時、リアルタイムではすごく人気があったらしい。エミール・クラウスの展覧会は観たことがあるけど、すごく発色のよいフィルムで撮ったカラー写真みたい。「ルミニズム」と称していたそうだけど、粒状感がシニャックやスーラといった点描派の比じゃない。
 ただ、今はカラー写真が進化してしまったから、「え?、写真?」ってなっちゃう。つぶつぶになる前のエミール・クラウスの絵も観たけど、今だと「こっちのがよくない?」ってなっちゃう。しかし、とにかくうまい。モネみたいに「すごい」とは思わされないんだけど、「うまい」とは思う。印象派が技巧的に進化していけばこうなるべきだって、そういう絵です。ポスターにもエミール・クラウスが使われてます。
 もうひとつの不幸は、写真じゃ伝わらないって事だな。写真みたいな絵のすごさは写真じゃ伝わらない。

これは、ガストン・ラ・トゥーシュの「長椅子」なんだけど、実物と全く違ってびっくりして絵葉書を買ってしまった。とくに窓の辺りの光の感じがまったく再現できてない。ひどい。

 これは、リュシアン・シモンという画家の「喪服姿のビグダン地方の家族」。この画家をモーリス・ドニが尊敬していたそうです。
 この流れでワタリウム美術館に行くと、

クリスチャン・ボルタンスキーのこれも絵だなって。これはもともと好きですけど。
 好き嫌いと善し悪しの判断基準が違うのは不思議。何度も言うけど、中山美穂とか藤原紀香とか美人なのは否定しませんけど、全然、カラダが反応しない。のに、日本エレキテル連合が素顔で出てると、「お」とか思っちゃう。
 JRの作品も、その他大勢の中で見れば、見栄えがよくなる。いくら旨くても、カブの漬物が食卓を埋めてたら、やっぱうんざりする。バナナマンゴー☆ジャスの差だな。