『街への鍵』

knockeye2015-10-08

街への鍵 (ハヤカワ・ミステリ)

街への鍵 (ハヤカワ・ミステリ)

 ルース・レンデルは、今年の5月2日に亡くなったそうだった。このニュースは、見落としていた。GWだったからか。
 そんなわけで、久しぶりに翻訳が出たようなのは、追悼の意味かも。
 1980年代には、読み漁っていたルース・レンデル。特に、ウェクスフォード警部のシリーズは、ほとんど読んだつもりだったけど、wikipediaを確認したら、まだ、五作品も翻訳されていない。21世紀のキングズマーカムってどんなだったか読みたいものだ。
 本作『街への鍵』は、そういう経緯で手に取ったので、絶筆かしらむと訝りつつ読んでいたのだけれど、1996年の作品でした。でないと、ちょっとおかしいとは思った。ネットもスマホも、全然、出てこないので。
 それで思い出したけど、1995年、阪神淡路大震災が起きたときに、「これからは、携帯電話持った方がええぞ」って、明石家さんま村上ショージに話してた、明石家電子台の楽屋トークだったと思う、そんな時代。
 ウインドウズ95が発表されたその時点では、ビル・ゲイツはインターネットの普及を想定していなかった。だから、この小説の書かれた1996年に、登場人物がPCもケータイも所有せず、固定電話と郵便でやりとりしてるのは、まったくまっとうなんである。「ウォークマン」なんて単語が、まるで普通名詞みたいに出てくる。
 しかし、それからまだ20年たってないんだけど、年月って、そんななの?。恥ずかしながら、歳とるのは初体験なんで、ちょっと戸惑ってしまう。
 ルース・レンデルのすごいのは、ウェクスフォード警部みたいな人気シリーズを生み出したら、たいがいの作家は、それにかかりきりになりません?。ところが、ルース・レンデルの場合は、それ以外にも旺盛に書き続け、しかも、バーバラ・ヴァインという別名でも書いている。『ロウフィールド館の惨劇』とか『死のカルテット』とか『引き攣る肉』とか、今でも何となく憶えてる。
 ストーリーテリングが巧みで引き込まれる。今作は、ある公園を中心に、4人の視点で話が進んでいく。クスリのためなら何でもやるジャンキー、同棲を解消して独り暮らしを始めた女性、ホームレス、犬の散歩で老後の生計を立てている元執事。
 階級社会って面白いのは、ホームレスに身をやつしていても、発音が、‘Received Pronounciation’だと、職務質問する警察官が、「思わず‘sir’と言いそうになる」そうだ。この感覚は日本にはないと思う。
 そうそう、これがルース・レンデルだよなって思うのは、犯罪者が「いちばんやな奴」ではないところ。みなさんがどう思うかわからないけど、罪には問われなくても「やな奴」はいるわけじゃないですか。wikipediaによると、ルース・レンデルは、パトリシア・ハイスミスの影響を受けてたそうだけど、ふたりとも、そういう「やな奴」を書かずにおれないんでしょうな。