しんゆり映画祭で『主戦場』が上映中止になったについて

 『主戦場』についてはもうだいぶまえに書いた。まだ、上映中だとは知らなかったが、こんどは、しんゆり映画祭という、ちいさな映画館のちいさな映画祭で上映予定だったものを、役人が余計な口出しをしてやめさせたということで、大騒ぎになっている。
 この映画祭をやってる映画館にはよくでかける。近くて、安くて、遠くまで出かけないと観られない映画をやってくれるので助かってる。映画祭つったって、そう銘打ってるだけで、日本映画大学の学校行事に近いノリだと思ってた。
 ただ、アルテリオ映像館という施設は、たしかに、市の公共施設で、役人が口出しすることになっている。そこに目を付けた日本会議電凸かなんかやったんだろ、たぶん。それか、やるかもなぁみいなことをにおわせたんだろう。役人なんてそれだけで十分なんで。めんどくさいこときらいだから。
 しかし、それで「辞めます」は、何とも情けない。じゃあ、最初からやらなきゃいいじゃないよ。おかしな話なのは、べつに渋谷に行けば今でも観られるんだし、こないだまで本厚木の映画館でもやってたよ。宣伝してるみたいなもんだけどね。バカだね、右翼って。
 しかし、いちばんまずいのは、日本映画大学って、今村昌平がつくった映画に特化した学校なんだけど、そこが右翼に屈するんだって、そういうの、がっかりだよね。たたけば埃が出んだろうなって思わせたね。多分出るんでしょう。
 まあ、上映中止はダメなんだけど、しかし、『主戦場』って映画自体は、突っ込みどころが満載の映画で、その意味で、二重にぐだくだなんですよね。
 あの映画の面白いのは、日系アメリカ人が監督ってことで、日本会議の連中がガードが下がって、聞くに堪えないようなことを平気でべらべらしゃべってるのよ。日本の右翼って、DNAに「アメリかは味方」ってすりこまれてるってのがわかる。靖国神社とか参拝しながら、アメリカと名がつくと、すりよってくのは不思議。
 それにしても、ほんとに日本会議の連中はバカ丸出しだった。そりゃ、上映してほしくないだろう。
 ところが、おもしろいのはそこだけで、慰安婦問題についていえば、そんなことはとっくに議論しつくしましたってことを蒸し返しているだけ。インタビューの相手はほとんど日本会議と挺身隊協議会で、バカの罵り合いを対岸で楽しむっていう、悪趣味な内容になっている。この監督はYoutuberだそうなので、そういうつくりだ。
 いちばんまずいのは、監督が日系アメリカ人なのに、日系アメリカ人には一切、インタビューしていない点。韓国系アメリカ人にはインタビューしているのだから、これは、かなりおかしい。『主戦場』というタイトルの意味は、慰安婦問題の主戦場は今は日本ではなくアメリカですってことだと聞いていた。アメリカの慰安婦像設置をめぐる裁判も映像に収めている。その片方のインタビューしか見せないのは、ドキュメンタリーとしての欠陥と言われて反論できるだろうか。
 したがって、まともな保守陣営(そういうものがあるとして)の論客ならば、上映中止ということではなく、むしろ、積極的に上映して、内容について徹底的に論じればよいだろう。ほんとに突っ込みどころは満載である
 慰安婦問題は、それにまつわるすべての人について、考えれば考えるほど情けなくなってくる。まずは、当時の日本陸軍がおぞましい。これはいうまでもない。しかし、それを三四半世紀もたって、自身のナショナリズムの正当化に利用する韓国人がいじましい。そして、それに乗っかって、ここぞとばかり男性嫌悪を叫ぶフェミニストにうんざりする。
 このミキ・テザキという映画監督は、インタビューによると、子供のころから日系人であるせいでさんざんイジメられてきたらしいのだ。そのせいで、自分自身の日系人の血を憎んでいる。そうでなければ、一番近い日系米人のインタビューが皆無なのはおかしすぎる。おそらくミキ・テザキの中では、その日本人の血に対するアンビバレンツな感情と、韓国人の旧宗主国に対する「恨」が共鳴しているのだろう。
 ちなみに、安倍晋三にしたって、この問題には、岸信介の孫というコンプレックスがまびれついている。安倍晋三朝日新聞の攻防は、岸信介安保闘争の代理戦争である。こんな具合に、慰安婦問題はさまざまなコンプレックスの見本市みたいなもので、どこを切ってもクズしか出てこない。解決策なんてありえない。放置するのが一番正しい。