『私は最悪』

 この映画は

私は最悪

ここから始まる。大学に入って辞めて、みたいなところから始めないのはさすがだと思った。
 パートナーの新刊披露パーティーで所在なげにしているこの女性が主人公なのであって、この女性のクロニクルではない。幾多の名作と同じく、いきなり核心から入っているわけ。「この映画はプロローグ、エピローグと十二の章からなる」などというキャプションも、ナレーションと台詞が重なる演出も、主人公の性格によく似合っている。つまりはややこしい女なのだ。
 ちなみに、主人公のパートナーの漫画家を演じているアンデルシュ・ダニエルセン・リーは、こないだ『ベルイマン島にて』にも出ていた。


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 今回とは逆の役どころだった。あの時は英語だったので気が付かなかったが、ノルウェーの人だったみたい。今回は全編ノルウェー語。ノルウェー語の字幕をつけてくれる人がいて、こういういい映画が見られてほんとにありがたい。誰が字幕をつけてくれてるんだろうかと調べてみたら、吉川美奈子さんだった。何カ国語できるんでしょうね。
 『ベルイマン島にて』のティム・ロスの役をこの映画ではアンデルシュ・ダニエルセン・リーが演じている。ただ、今回の場合、タイトル通りに主人公のユリヤが「最悪」、少なくともガールズトークでは槍玉に上がるかも。
 とはいえ、悪の基準がネットでの炎上にすぎない現代では、「最悪」もかなり値崩れしてしまっていて、この「最悪」も慎重により分ける必要がある。悲しさにも似てるし、寂しさにも似ている。してもしょうがない後悔にも似ている。
 ところで、アンデルシュさんが演じている漫画家は、ロバート・クラムをモデルにしている気がするけど、違うのかな?。アンダーグラウンドの漫画家を知らないだけかもしれない。ただ、ユリヤが選ぶのはそういう、嘘をつかない男である必要があった。


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 ユリヤは、成績がいいからってだけで入った医学部に馴染めず、うっかり「自分探し」の闇にハマってしまう。母親は放任主義、幼い頃に別れた父親は彼女に興味がない。
 頭も顔もいいので誰も、おそらく彼女自身も気がついてないけれど、ユリヤは自分に自信を持てない。自由奔放に見えながら、じつはもがいている。こういう現代の女性像を描いた映画は、ありそうで意外になかったのかもしれない。
 オスロの街並みは、そのせいかどうか、白夜とフィヨルドを除くと、日本の地方都市に見えなくもなかった。ネットがフラット化した世界に生きる孤独。選択しているようでそれもじつは必然にすぎないような、自分の小ささが可視化されてしまう社会を世界は共有しているのだろう。


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