低予算だけれども、奇想天外ではこちらも『NOPE』に負けてない。ネタバレの書きにくさではこちらの方が上かも。というのは、あらすじだけ言うと「んなバカな!」感がこっちの方が強い。ところが、映画で観ると「あるかも」と思わされてしまう。
監督、脚本の片岡翔は今年の初めに公開された『ノイズ』って映画の脚本を書いた人。あの映画は原作の漫画も読んだけれど、映画化にあたって設定を変えたあたりがすごくうまくハマっていた。原作を破綻させずに映画的な表現にチューンアップするのがうまい人だと思った。今回の映画も、元々は「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2017」の準グランプリを獲得した自身の作品を脚色したもの。受賞したころの設定からだいぶリライトしたみたい。繰り返しになるけれど、下手すると大怪我しそうな設定を、虚虚実のバランスをとりながら進んでいく緊張感が絶妙に上手かった。
たとえば、二ノ宮隆太郎が演じている狂人がいるのだけれど、単に気が狂った人なのかと思いきや、じつはそうじゃないって後で分かる。この伏線は気がつく人いないっすわ。
玉木宏の善悪の微妙な境目にいる感じも怖かった。桜井ユキと桜木梨奈の絶妙に似てる美貌もナイスキャストだし、主役の南沙良は『鎌倉殿の13人』で大姫を演じた記憶も新しく、狂気のオーラを纏っている。大西流星が、子供の頃に南沙良にあった記憶があるという謎の仕掛け方もうまい。
ノベライズされてるらしいが、これは小説ではダメだと思う。文字にするとバレる。なので、あらすじの紹介さえ難しい。あるいは逆に簡単すぎる。
しかし、あえて紹介すると、玉木宏演じる心理療法士の一家が事故に遭い、妻は植物状態、次女は顔に大やけどを負い、自身も脚に障害が残る。長女の南沙良だけが無傷だったが、心に深い傷を負ってしまう。事故から5年後、父親が「奇跡が起きた」といって昏睡から目覚めた母を連れて戻ってくる。だが、南沙良はその母に違和感を覚える。一方で、奇妙な心の病の母と暮らす大西流星は、母と同じ病いの人たちがこの町に何人もいることに気づいて調べ始める。その過程で、記憶の底にわずかに残っている南沙良に出会い、お互いの秘密を交換し始める。
この後の展開はもう言えないのだけれど、大方の予想は上回ってくる。その上回り方が絶妙で、上回りすぎない。上回りすぎないから、あなたの予想を上回るでしょうと言えるんだろう。こういう映画はネタバレとかしない方がいいんだろうな。ストーリーテリングのうまさで怖がらせてくれる。
奇妙な世界観を受け入れたとしても、ツッコミどころは1、2箇所あると思えるが、それでもオリジナリティに圧倒される。
ところで、二ノ宮隆太郎は『枝葉のこと』、『お嬢ちゃん』以来久しぶりに見られて嬉しかった。また監督作品が観たい。