ヤマザキマリの世界 展

山下達郎の肖像

 この絵を観たくてヤマザキマリ展に出かけた。『SOFTLY』のジャケットに使われているこの絵は、山下達郎ポートレートとして、写真も含めて格段によいと思う。山下達郎さんの顔は世に言うイケメンの基準とは外れるのだけれど、これはヴェネツィア展で観たヴェネツィア総督の肖像画を思い出させる。
 ヤマザキマリは、若い頃フィレンツェで「北方ルネサンス時代の肖像画」を学んだ人だそうだ。昔の肖像画を見ると、どんな権力者の肖像画でも、いわゆる「盛って」描くよりも、やっぱり似せて描くことが求められたみたい。ほんとはロバに乗ってたナポレオンを白馬に跨らせたダビッドみたいな捏造はあるものの、それはあくまで演出ということで、顔の方は似せることが求められたみたい。これは考えてみれば、写真のなかった時代なら、当然の感覚だったのかもしれない。ブスに写ったからといってカメラに文句を言う人はいないし。それでもカルロス2世の肖像画なんて、本人もちょっとイラッとしなかったかなと思わんでもないが、でも似ても似つかないイケメンに描くとそれはそれでムカつくだろうし。
 油彩の肖像画山下達郎の他に、立川志の輔桐竹勘十郎の二作品があったが、この山下達郎が頭抜けてよい。もしかしたらこれはヤマザキマリの生涯のマスターピースになるかもしれない。