『世界の終わりから』ややネタバレ

 紀里谷和明って映画監督について、これまでまったく何も考えたことがなかったけど、ここに辿り着けてよかった。
 つうのは、監督デビュー作が『CASSHERN』だから。「キャシャーン」はタツノコプロのテレビアニメだけど、それを「CASSHERN」って。
 たとえば、まさに今「聖闘士星矢」が映画化されてるけど、誰が見るの?。ちょっと前には「ガッチャマン」も映画化されてるが誰が観たの?。そりゃ見ないっすよ。その拒否反応はむしろ当然だと思う。良し悪し以前の問題だと思うわけ。
 監督2作目が『GOEMON』だったんだけど、これも全く同じ理由でまったくアンテナに引っ掛からなかった。もれつたわるところによると、だいぶ叩かれたそうなのだが、それも含めてその事実すらアンテナに引っ掛からなかった。
 しかし、この『世界の終わりから』から振り返ると、映画監督としての紀里谷和明は、確実に歩をすすめていたってことになるだろう。三部作と定めていたらしく、これで映画はやめるらしいが、キャシャーンというよくあるジャパニメーションのハリウッドリメイクの、さらにまがいものみたいな(あくまでイメージですが)からスタートして、このオリジナルストーリーに到達したのはなかなかすごいと思う。
 『CASSHERN』『GOEMON』なしで、いきなり『世界の終わりから』だったら、衝撃のデビューだったと思うが、なかなかそうはいかない。やっぱり模倣から始まってオリジナルに至るわけである。
 他の人たちは、模倣の段階を大学サークルとか自主制作で経てくるのだけれど、例えば庵野秀明の『帰ってきたらウルトラマン』とか。紀里谷和明監督の場合、幸か不幸かいきなり商業デビューだったから、多くの人に届く反面、批判もあったのでしょう。
 私の場合、『世界の終わりから』が初・紀里谷和明監督なので、これは見事だったわ。何が見事って、まずシナリオが見事だし、シナリオの背後にあるオリジナリティが見事(変な言い方だけど、このシナリオが発生してくる源泉にリアリティを感じる。ぶっとんだ設定が嘘くさくない。どころか、切実なのはそれがあるからで、それこそまさにSFの存在意義だから)だし、キャスティングが見事。
 キャスティングが成功したら映画は成功したも同然だけど、シナリオが勝手にキャストを選んだみたいに感じさせる映画ってやっぱりいい映画なんだよね。
 主演の伊藤蒼は『さがす』『空白』のあの子で、これはあれよりさらによい。夏木マリ冨永愛NHK『大奥』の徳川吉宗の存在感)がよい。朝比奈彩が、「あれ?これ、朝比奈彩?」って二度見した。北村一輝高橋克典はハマり役なんだけど、毎熊克哉が『生きちゃった』『猫は逃げた』あたりからだんだん存在感増してきている。
 又吉直樹岩井俊二といったちょい役に至るまで、監督の意思(遊び心?)を感じる。あの宇宙船の声がちょっと関西訛りなのいい。
 『CASSHERN』『GOEMON』はtrailerを見たかどうかくらいなんだけど、元々映像美には卓越したセンスがある監督なので、そこは今回も完璧です。特に、モノクロームの使い方がわかってる。
 夏木マリのセリフで「歴史ってのは事実の連なりじゃなくて、人々の想いの総量みたいなもんなんだよ」っていうのがすごく今を感じさせる。
 つまり、ウクライナの戦争にしてみたところが、まさにその歴史が惹き起こしている戦争なわけで。事実としてそれを捉えると水掛け論にしかならないが、想いの総量としてなら解決の道があるだろうと思われる。


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