明らかに円安のせいで、最近は耳目を集める展覧会は減っている。
でも、時には美術館に行きたいので竹橋の常設展に出かけた。そしたら、意外にも「ガウディとサクラダファミリア展」が大盛況で長蛇の列。個人的には、サクラダファミリアを美術館で観るってどうなんだろうという感じなので。
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東京国立近代美術館の常設展といえば原田直次郎の重要文化財《騎龍観音》が有名。常設も常設で、いつ行っても展示室の一番奥、テーブルでいえばホストの位置に鎮座している。だが、正直なところ、私には気色悪い。西洋の技法で日本の文化を表現したってことらしいが、得体の知れない生き物の頭の上に性別もわからない変な奴が、起きてるのか寝てるのかもわからない顔で乗ってるって絵になっている。「半眼」をバカ正直に油彩で描いたらしいのが白ける。技法も文化の一部なので、技法の部分だけ入れ替えて、西洋と東洋の融合ということにはならないでしょ、と、今から振り返れば確かに簡単なことだが、原田直次郎のこの絵がそれを気づかせてくれるのだとも言える。
これに比べれば、アーティゾン美術館にある、青木繁の古事記に取材した絵画のほうが確かに生き生きしている。青木繁と原田直次郎の力量の差ではあるが、日本の近代にナショナリズムが感覚的にも強く結びついていたってことなんだろうとも思う。
上の新海竹太郎の《ゆあみ》も《騎龍観音》と同じように「日本的な表現とヨーロッパ彫刻技術の融合」という点が評価されて石膏原型が重文に指定されているそうだ。西洋的なプロポーションの上に日本的な顔が載っているってことなんだが、今となっては、これ実にフツーで妙にリアルじゃないだろうか。こういうグラビアアイドルがいてもおかしくないと思うのだ。
もし、《騎龍観音》と同じくらいの違和感が当時はあったとすると、当時の違和感に今の現実は追いつき、そして凌駕したってことになる。
下世話な話をすると、当時の男性の肉体はこれにはピクリともしなかったのだろう。だけでなく、キメイラを見るような違和感があったと思うのだ。それが今はフツーに見える。プリミティブで根源的と思える感覚もけっこう当てにならないってことなんだろうと思う。
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美人画で有名な鏑木清方の連作があった。鏑木清方は、水野年方の弟子で、月岡芳年の孫弟子。月岡芳年は歌川国芳の弟子なので、鏑木清方は、歌川派の流れを継ぐ浮世絵師を自認していたろう。帝展にも出品したが、どちらかというと、それ以上に挿絵を描くことを好んだきらいがある。大仰な展覧会よりも、浮世絵師が絵草紙に描いたように、新聞小説の挿絵を描くことを慈しんだように見える。
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同じく伊東深水の《春》。このころ渡邊庄三郎が浮世絵の再興を目指して始めた新版画のひとつだとわかるのは、バレンの摺り跡を故意に残す「ザラ摺」が目立つから。絵師が意図しない表現を画面に加えるのはどうなんだろうと思う。蔦屋重三郎が写楽の大首絵の背景を雲母摺りにしたのは、謎の絵師写楽のデビュー作だったので、すでに名のある伊東深水や橋本五葉の絵にその一手間は、いくら版画が分業作業とはいえ是か非か疑問に思う。
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伊東深水のこの屏風には一瞬で目を奪われる。酒井抱一の《夏秋草図屏風》さえ思い出させる。
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北野恒富といえばもうすこしおどろおどろしい絵が記憶に残るが、こういう清涼感のある絵もよい。
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近藤浩一路のこの絵は鵜飼を墨で描いた6枚の連作で、見るたびにすごいなと思ってるのだけれど、まずはサイズがデカいのと、黒い絵は展示ケースのガラスが鏡になってしまって写真に撮りにくい。今回はMOMATの方で鑑賞者の背後に黒いカーテンを置く配慮がされていたので何とか撮影できた。6枚とも素晴らしい水墨画なのでぜひ見てほしい。
珍しいところでは、田中敦子が《電気服》を着るところの写真があった。
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具体の人たちの中では、白髪一雄と田中敦子が好き。振り返ると抽象画でも、フォーヴというか、表現的というか、感覚的というか、描いてる肉体を感じさせる絵が好きなのかもしれない。