『枯れ葉』

 今年の映画初めは、アキ・カウリスマキの『枯れ葉』。ですけど、満席でびっくり。

元町映画館

これ

が、 

元町映画館

こう

ですから。

引退を撤回して5年ぶりにとった映画は、ケレン味のないまっすぐなラブストーリーで、トルストイが老年に書いた『復活』のみずみずしさを思い出させる。

 宮藤官九郎さんがアキ・カウリスマキの大ファンを公言していたのだけど、ふりかえってみると、私は『希望のかなた』が何となくピンと来なかったので、そのまま他は観てなかった。

 クドカンが褒めてるのにピンと来ないってことは自分には合わないのかなってなっちゃうじゃないですか。でも、「引退撤回」ってなると、クドカンがあんなに褒めてたんだからって気持ちになる。

 『枯れ葉』は『希望のかなた』には感じられなかった立体的な深みや広がりを感じることができた。あいかわらず登場人物は寡黙でぶっきらぼうなんだけど、そこに作為を感じさせない。

 これも結局、伊賀焼の花入じゃないけど、わざと歪ませて歪ませてを繰り返してるうちに、ほんとに無作為に歪んでたみたいな逸品ができあがるってことの一例なのかもしれない。

 主役のアルマ・ポウスティは『TOVE/トーベ』でトーベ・ヤンソンを演じていたあの女性。

 ネタバレというほどのことは何もないけど、たぶん映画に詳しい人は色んな引用を見つけられるのではないか。私はそんなにわからなかったけど、わからなくても、シーンごとに感じる奥行きってそういうことかなと思う。小津安二郎へのオマージュは、シーンが切り替わる時に挟み込まれる謎の捨てコマみたいなのは明らかにそうでしょう。

 いちばん印象的なシーンは映画館の前の歩道に落ちている大量の煙草の吸い殻。このシーンはどこかで見たことがあるのではと、全然思いつかないにも関わらずそう思わせる。「これは名シーンだ」とは思わせず「これは名シーンのオマージュなんじゃないか」と思わせる。考えてみればそれこそ名シーンなのかも。

 そもそも電話番号を紙に書いて渡すアナクロさから、だはこの吸い殻を大量にポイ捨てするアナクロさまで、あまりにも現実離れ(浮世離れ?)していると見えるはずなんだが、そのミニマリスティックな削ぎ落とされた表現がリアリティを疑わせない。

 男のホラッパの方は女を探してるとわかるが、女のアンサ(アルマ・ポウスティ)の方はホラッパを探しているのかどうか、煙草の吸い殻を見たときどう思ったのかとか、そもそも見たのかすらはっきりとは描かれない。そのあたりで観客はもう術中にハマっているんだと思う。

 ふたりが一緒に見た映画がジム・ジャームッシュの『デッド・ドント・ダイ』というのもよい。観たことがある映画なので、過去記事に何か書いてるかなと探してみたけど、特に何も書いてなかった。それは案の定というか、「え?、何これ?」っていうゾンビ映画だった記憶しかない。ゾンビ映画かつUFO映画だったんだが、この映画の中では、見知らぬ観客AとBが、ロベール・ブレッソン田舎司祭の日記』だ、ジャン=リュック・ゴダールの『はなればなれに』だと言い合って別れるシーンが挟み込まれる。そうなの?。それともからかってるのか?。でも、その辺りから魔法をかけ始めていたわけだろう。

 折に触れて、ウクライナの戦況がラジオで流れるので、これが紛れもなく今を描いているのがわかる。そのラジオはまるで50年代みたいなクラシックなラジオなんだけど。

 そして、音楽がまたよい。BGMが目立つ映画は好きじゃないんだけど、この映画は音楽がもうひとつの主役かと思えるほど。その中でどうやらあちらの人が日本語で歌ってる「竹田の子守唄」が入ってるのが不思議だった。日本人としては山本潤子の歌声でないのがすごい違和感なんだけど。

kareha-movie.com

 

希望のかなた(字幕版)

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TOVE/トーベ(字幕版)

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