『コット、はじまりの夏』

 今年観た映画の中では今のところこれが最良。
 個人的には小さい女の子が主役の映画はどうも合わないのだけれど(例えば『秘密の森の、その向こう』とか、セリーヌ・シアマ監督では名作だった前作『燃ゆる女の肖像』と同じくらい評価が高いのが、わたしはよくわからなかった)、この映画は、キャサリン・クリンチ演じるコットもさることながら、実は、コットがひと夏をすごすアイリーン(キャリー・クロウリー)とショーン(アンドリュー・ベネット)夫婦との家族の物語が実はメイン。
 それで、わたしがなぜ女の子の話が苦手なのかわかった気がした。わたしが苦手なのは「いや、それ言われても…」っていう少女マンガ風ミーズムっていうか、わかっていただけるかどうか、何で泣いてるかわかんない女の子のまわりを女の子が取り囲んでこっちを睨んでる感じの女の子のストーリーが苦手だったみたい。この映画は主人公が男の子でも全然成立する。
 監督・脚本のコルム・バレードの語り口も見事。初長編というから驚かされる。西川美和とか令和ロマンとかそんな感じ。新星が現れましたって誰にもわかる。奇を衒わない日常的なテーマでこれだけ新鮮な感動を描いて見せたのも素晴らしい。
 キャストも監督もほぼアイルランド人で固めて、英語よりもアイルランド語の方が多用されているのも土着の感じがあってよかった。
 前にも書いたけど、エマニュエル・トッドの分類では、日本人とアイルランド人は家族の型が同じだそうだ。権威主義型というのだけれど、地政学的には全く違うのに、日本人とアイルランド人は感覚がすごく似てる。リチャード・ギアが日本贔屓で、忠犬ハチ公を映画化してしまったなんてことも起きる。
 この映画は世界中の映画祭で賞レースを席巻しつつあるみたいだけど、実は日本人にいちばんハマる映画なんじゃないかと思っている。

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