天皇の逝く国で

天皇の逝く国で

天皇の逝く国で

1991年に英語で出版され、全米図書賞を受賞。1994年に日本語に翻訳された。つまり、今から17年前、題名が示すとおり、元号が変わるころの日本に生じた三つの事件を扱った本だが、それぞれの事件は今の時点で更に重要になっているように思える。
たとえば、第一章の知花さんの事件は、集団自決に軍の指示がなかったとする教科書の記述をめぐる今年の一悶着に直結している。
著者のノーマ・フィールドは米軍人と日本女性の間に生まれ、ハイスクール卒業までを日本で過ごしたアメリカ人。
第一章は、沖縄国体で日の丸を焼いた知花昌一さんを訪ねる。
第二章は、旦那さんが、死後靖国神社に祭られたことについて訴訟を起こした女性。
第三章は、天皇に戦争責任があると発言して、右翼に狙撃された長崎市長
三つの事件とも、テレビや新聞で目に触れているはずだが、ほかの多くのことと同じで、知ってるつもりであっさりやり過ごしていた。
たとえば、読谷村は、実は市になりうる規模がありながら、村民の選択であえて村にとどまっているとか。
旦那さんが奥さんの承諾なしで靖国神社に祀られた事件に関しては、旦那さんは旧日本軍の軍人さんだと思っていた。自衛隊の人だったのである。つまり、死者を勝手に靖国神社に祀っていたのは、旧日本軍ではなく自衛隊だったのである。
また、第三章の長崎市長は、単にキリスト教徒というだけでなく、隠れキリシタンの末裔だそうだ。彼の祖父は明治になって信仰を明らかにしたのだが、明治時代なのに拷問にかけられている。石抱きの拷問で、角を上にして並べた角材の上に正座させられ、石を膝の上に載せられるあれで、肉が裂け、骨が砕けて一生歩けなくなる。私たちの国って、今生きている人のおじいさんがこんな目にあっている国だったのである。
日本人の他民族への差別の問題、政教分離とひいては日本人の宗教の問題、戦争責任の問題、普段とりあえず目をそらして生きている問題だし、うかつに触ると右翼左翼がかまびすしいし、外国人にはわからないという思いもあるし、なかなか難しいのであるが、18の歳まで事実上日本人であったアメリカ女性が、内なる日本と照らし合わせながら、曇りのない目でこれらの問題を提示してくれている。
しかも、みずからの少女時代の体験を語るところは、三丁目の夕日的な懐かしさがあって実にいい。すくなくとも今の若い人たちよりは、そのころの日本を語る資格があるわけだから。