「コードネーム U.N.C.LE.」

knockeye2015-11-26

 「コードネームU.N.C.L.E.」てふ、米ソ冷戦時代が舞台の映画を観た。おっさん世代なら、子供の頃にテレビで見たことがあるかもしれない、懐かしのあの「ナポレオン・ソロ」のリメーク。私なんかは、ナポレオンてふ固有名詞は、ボナパルトより、ソロの方が先に記憶に刻まれたぐらいだが、にもかかわらず、内容は全然憶えてない。ただただ、ロバート・ヴォーン(「荒野の七人」にも出てる)の演じるナポレオン・ソロが、おしゃれでかっこよかったつうことと、子供心にちょっとエッチな期待もあった。
 そのころは、ぜんぜんわかってなかったけど、アメリカとロシアのはみ出しスパイが、英国諜報部の下で、タッグを組むっていう設定だったのね。いろいろ遊べそうな設定で、なるほど人気があったのも納得。
 今回の映画も、そういう旧作のテイストをそのまま生かした、おしゃれなスパイ映画に仕上がっている。観てる間は存分に楽しめるけど、観た後で反省したくなる。いいのか?、こんなに懐古的で、と。
 米ソ冷戦時代を懐かしむ気持ちになるのは私だけなんだろうか。東西冷戦は、自由主義社会主義の対立ではあったんだけど、結局のところ、共有する価値観や歴史があった。もしかしたら、ほんとに、米ソのスパイが通じていて、核戦争を回避するみたいなことが起こりえたんじゃないかと、想像してみたくなる、そういうベースはたしかにあった訳だった。
 核抑止力なんてのは、まやかしみたいに思っていたけれど、たしかにその抑圧があって、米ソは戦争を回避し続け、少なくとも先進諸国は、長い平和を享受し続けた。
 ソ連の崩壊で冷戦が終結して、誰もが世界が平和になると思ったのだけれど、どうにもひどいことになってしまったのは、ひとつには、イスラエルと中国の横暴を、第二次世界大戦の負い目から、西欧諸国が見過ごしてきたこと。もうひとつは、冷戦後の米ロ関係を友好に導けなかったことだろう。
 シリアに空爆に向かうロシアの戦闘機をトルコが撃墜した。NATO軍がロシア機を撃墜するなんてことは、冷戦時代にすらなかったことだそうた。
 ISISのテロに対して、世界が協調してゆくかに見えた矢先に起きたこの事件は、「国際社会 vs. テロリスト」という文脈とは別に、イスラム社会には、「スンニ派 vs. シーア派」の対立が根深いことを改めて印象付けた。
 今週の週刊プレイボーイに、河合洋一郎てふ人の分析が掲載されていて、それを読んだ直後の撃墜だったので、衝撃を受けた。
 ロシアとウクライナの対立で、ウクライナを経由するロシア産天然ガスの供給が不安定になった欧州諸国に、カタールが、カタール・トルコ・パイプラインというのを計画していた。これは、カタールサウジアラビア〜ヨルダン〜シリアを経てトルコを通る計画だった。しかし、この計画の交渉なかばに、シリアは、イスラミック・パイプラインという、イラン〜イラク〜シリア〜レバノンを経て欧州に至る、天然ガスの供給ラインの建設を立ち上げてしまう。
 カタール・トルコ・パイプラインのシリア以外の経由国は、全てスンニ派の親米国なのに対し、イスラミック・パイプラインは、すべてシーア派国を経由する。
 スンニ派カタール・トルコ・パイプラインが完成していたら、ロシアは愉快ではなかっただろう。逆に、アメリカは、シリアさえスンニ派政権だったらなぁと、考えるだろう。
 陰謀論っちゃ陰謀論、ありそうな話といえばありそうな話だなぁと思いつつ読みとばしていたら、このトルコによるロシア機撃墜が起きた。
 ロシアがISISの空爆をしているのは誰もが知ってる。17秒領空を侵犯した機体が不審だったとは到底思えない。トルコが確信的だったことは疑えない。
 つまり、この空爆は、河合洋一郎の見立てを裏付けたかたち。いずれにせよ、アメリカはロシアに借りができた。オバマの外交下手はあいかわらず。