「リップヴァンウィンクルの花嫁」

knockeye2016-03-27

 横浜ブルク13で、岩井俊二監督の「リップヴァンウィンクルの花嫁」を、今観てきたところなんだけれども、素晴らしいとしか言いようがない。わたしなんかが褒めるのは恥ずかしいくらい。打ちのめされる。今年公開される日本映画の最高のもののひとつなのは間違いない。
 主演を務めた黒木華は、山田洋次監督の「小さいおうち」でベルリン国際映画祭の最優秀女優賞を獲得しているが、そうはいっても、あの映画は、むしろ、松たか子倍賞千恵子の映画だったと思うが、「リップヴァンウィンクルの花嫁」は、まさに黒木華の映画だ。これほどイライラさせられながら、これほど惹きこまれた主役はちょっと記憶にない。
 綾野剛のこれまでの代表作、なんといっても「ガッチャマン」ではなく「そこのみにて光輝く」、あの時のインタビューで、「この作品を超えていきたい」と語っていたと記憶しているけれど、今回の綾野剛は新境地だったと思う。
 ゲーテの「ファウスト」のメフィストフェレスのような、超然としていながら同時にひどく下世話な、非現実的なようでいてひどく現金な、薄情なようで如才ない、なんとも魅力的な人物を作り上げていた。いまのところ、あれは綾野剛でなければ成立しなかっただろう(だいたい、名前が安室行桝で、社名がアズナブルで、「ランバラルの友達」なのである)。
 Coccoも素晴らしかった。あの、なんというのか、あれもベッドシーンというのかわからないけれど、その時のセリフの意味が分かった時には愕然としたし、映画を観終わった後も、長く余韻を響かせ続けるのはあのセリフのせいだと思う。
 岩井俊二監督の今回の撮影スタイルは「スペックの高いカメラで、少人数体制で」「とにかく思いついたエピソードは全部撮った」のだそうだ。撮影は8か月に及び、作品は3時間だが、これが少しも長く感じない。「え、もう3時間?」くらいの感じだった。
 インタビューによると「(東日本大震災は)僕が『ヴァンパイア』という作品をやっている時で、震災が起こるまでは日本にフォーカスが合わなくて、日本向けの企画がうまく書けない時期だったんです。震災が発生して、日本へ戻ってきてから自分の中でスイッチが入ったというか、今後の日本について書きたいという衝動が沸き起こったんです」。
 そして、宮川朋之プロデューサーから、黒木華主演の映画製作を打診される。
 「いろんなテーマを書いていたのですが、ようやく着地したというか。地震の描写もなければ、津波原発も出てこない。ただ、なんとなく震災から5年近く経った日本のどこかの縮図は描けたんじゃないかなと思っています」。
 おかしなことを言うようだけれど、日本映画の水準は高いなと思った。「キャロル」はいい映画だったけれど、日本語という言葉の壁があるだけで、この映画は「キャロル」を軽く凌駕していると思う。実際、先に公開された台湾と香港では大ヒットしているそうだ。こういういい映画はもっと海外の人にも観てもらいたいなと思う。