『TENET』

 新作『TENET』について、クリストファー・ノーラン監督は
「これはスパイ映画だ」
と断言している。
「時間の逆行という概念はコンセプトにすぎない。長年、自分が大好きなジャンルであるスパイ映画に取り組んでみたいと思っていたし、そこにデビュー作からずっと取り上げてきた“時間”というテーマをミックスすると、これまでに観たことがない作品になるんじゃないか、と気づいたんだ。 」
 ジョーン・コネリーのジェームズ・ボンドが登場した60年代の新鮮さを越えていこうとしとき、ボンドカーのギミック感にちょっと機能を付け足すだけで満足しないのが、クリストファー・ノーラン監督の卓越したところなんだと思う。
 スパイ映画といえば、『007』シリーズの他に、『コードネームU.N.C.L.E』、『キングスマン』、『裏切りのサーカス』、『誰よりも狙われた男』など、これにCIAモノまで加えていくと膨大になるが、『TENET』は、その中でも『007』シリーズに近い、なんなら最も近い、荒唐無稽のスケールだと思う。
 前評判では「難解」とか言われていたけれども、というより「複雑」というのが正しい気がする。「複雑」なストーリーを視覚化する面白さに感嘆させられる。「難解」だったのはむしろ作り手の側だったろう。
 観客の誰かがこの映画をもう一度シナリオに書き起こせるか、文章で伝えられるか?。それは絶望的だと思う。これを頭の中から引っ張り出して現にヴィジュアライズしたクリストファー・ノーランの力業はすごい。
  過去と未来から挟み撃ちにする戦闘シーンは見応えがあった。たしかにそこで何が起こっているのか正確にはわからない。すごいのは、わからないのにそれが目の前で見えていることだ。
 観客はたぶんわかる必要はない。現に見えてるんだから。水道をひねれば水が出る、iPadを開くとインターネットにつながる、しかし、その仕組みをわかってる人って、どのくらいいる?。
 ただ、これを作る側は、理解を共有する必要があったろう。物理学を理解する必要はない。ただ視覚化のために逸脱できないルールは共有する必要があったはず。まず必要なルールを決定して、そのルールを共有して、ルールの範囲内で最高の結果を出す。それがすごくイギリス的だと思う。
 『イエスタディ』で主演したヒメーシュ・パテルが重要な役で出ていた。
 主演はデンゼル・ワシントンの息子のジョン・デヴィッド・ワシントンだし、舞台もインドやベトナムなのも実に自然で、そういう多様性にも目配りされているのにも好感が持てた。
 これが出演者が全員真っ白で、舞台も西欧だけだったら、たぶん古臭く感じたと思う。そして違和感を感じたはず。倫理観とかではなく、リアリズムに徹するとこうなると思う。
 日本でも、森崎ウィンとか、秋元才加とか、青山テルマとか、普通に活躍しているのに、難民受け入れに消極的なのは、ホント時代錯誤だと思う。
 個人的には、クリストファー・ノーラン監督作品では、『ダークナイト』より断然こっちが好きです。


映画『TENET テネット』ノーラン監督メッセージ&スペシャル予告編


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