クリスマスから大晦日までのこの時期って特別な呼称はないけど、なんとなく他の時期とは違う独特な雰囲気がありますよね。『きっと、それは愛じゃない』は、この時期にちょうどいい感じです。
クリスマスのほっかほかデートムービーではなく、お正月の大衆娯楽映画でもないけど、観る前の予想はだいたい超えてくる映画だと思います。
主演は『イエスタデイ』『ベイビー・ドライバー』などのリリー・ジェームズ。って、他にもいっぱい出てますけど、この二作品はわたしが観た作品ってことです。3作品ともまったく違うテイストですが、個人的には今回のリリー・ジェームズが好きです。ちなみに『イエスタデイ』はファンタジー、『ベイビー・ドライバー』はアクション、『きっと、それは愛じゃない』はラブコメってことになるんでしょうけど、そのラブコメ具合がまさにこの時期にちょうどいい感じです。
配給のキノフイルムズもコピーに困ったのか、「『アバウト・タイム』『ブリジット・ジョーンズの日記』の製作陣がすべての悩める現代人に贈る」って、わかるようなわからんような宣伝をしています。「製作陣」っていわれてもね。
ただ、『アバウト・タイム』を例に挙げたい気持ちはわかります。ご覧になった方はあの感じを思い浮かべながら観に行かれるとよろしいかと思います。『アバウト・タイム』は、オードリーの若林さんがすっごい気に入ってたみたいです。あの時のレイチェル・マクアダムスは、ルッキズム云々を言われるかもしれませんけど、可愛かった。
あの映画のビル・ナイの役どころが、今回の映画では、エマ・トンプソンだと思ってください。リリー・ジェームズの母親役。母ひとり子ひとりの家庭なんですけど、隣のパキスタン移民一家と関係が良好で、リリー・ジェームズが子供の頃から家族同然の付き合いをしています。
ゾーイ(リリー・ジェームズ)はドキュメンタリー映画の監督をしています。そこそこ食えてる感じ。でも、新しい企画案に詰まって、つい、隣のパキスタン人の幼なじみ、カズ(シャザド・ラティフ)から聞かされたお見合いの話を持ち出します。
お見合い結婚って、日本でさえ絶滅危惧種なイメージなのに、現代のイギリスでって、世界的にも晩婚化が問題なってる時だし、マルチカルチャラルな視点もあるしってことで、確かに興味深い。で、それを撮ることになっちゃいます。
ここまででうすうす気がついてると思いますが、その期待は裏切られません。しかし、それをどう持っていくかが監督の手腕だし、こういう映画の勘どころですよね。その展開がすごくうまいです。「『アバウト・タイム』の製作陣」云々のコピーはこういうところをくみとってほしかったんだなあって気付かされます。
ちなみに移民問題は関係ないと思います。カズはパキスタン移民と言ってもすでに3世ですし、職業は医師ですし。これを移民問題の映画って言うなら『ボヘミアン・ラプソディ』だって移民問題になっちゃいます。マルチカルチャーが重要なモチーフになっている映画なのは確かですが、それは移民問題ではない。移民問題つうなら『エンパイア・オブ・ライト』とか80年代を描いた映画がそれにあたるんじゃないでしょうか。そう言う意味での移民問題あたりでまだグズグズしている日本が情けなくなります。
エマ・トンプソンが演じている母親が、隣人の家族は自分のとっての「村」だったとゾーイに言うところがあります。こういう文化の受け入れ方が実にイギリス的だなと思いました。
ゾーイの作った映画は、しかし、この「村」に小さいとまでいえない不協和音を響かせることになります。カズのお見合いはどうなるのか?、カズとゾーイの幼なじみはどうなるのか?。現代の『卒業』まで言うと遠すぎるのかもしれませんけど、お見合いが意外なおとしどころに落ち着くって意味では『麦秋』みたいな味わいがあります。『晩春』はしつこいようですけどわたしは反戦映画だと思っているのですが、『麦秋』はそれよりぐっと明るい。脚本の野田高梧も『麦秋』を気に入っていて「『東京物語』は誰にでも書けるが、これはちょっと書けないと思う」と語っていたそうです。