「告白」

湊かなえの原作が本屋大賞を受賞したときはびっくりしたものだった。
なんといってもデビュー作だし、ストーリーテリングも少し直球すぎるんじゃないかと思ったからだった。
しかし、私が見落としていたのは、この小説が、今という時代のリアルをつかまえていたということだった。
そのことに気が付いたのは、内田樹の本で、学級崩壊の実態を読んだときだった。
湊かなえの『告白』に描かれていることは、よくできたお話ではなく、実は、ドア一枚隔てた向こう側、どころか、電車で肌を接してすわっている隣りの奴ほどリアルだったのだ。
『告白』が映画化されると知ったときもまた驚いたが、「パコと魔法の絵本」、「嫌われ松子の一生」の中島哲也監督が、あえて色を抑えて撮っているトレイラーを観たとき、驚きはすぐに期待に変わった。
中島監督が、この小説の話題性ではなく、そのリアルの部分に反応していると分かったからだった。
中島哲也自身の手になる脚本も、最後の一言に至るまですばらしい。ラストまで、骨太なビートを刻んで、観客に息つくひまもあたえない。
むしろ非現実的なほど抑えた色調、様式美のなかに嵌め込むことで、かえってリアルを引き立たせた。
生徒たちが、まるで、ギリシャ悲劇のコーラスのように見える。
独白の多い長ゼリフも、全編ワンコードで歌われるミュージカルのようだった。
そして、松たか子がすばらしい。
後味は苦い。泣いている観客なんてひとりもいない。
この映画は、わたしたちの現実の首根っこをしっかりとつかまえて
「ほら、こいつだ。こいつがお前らが生きてる現実だ」
と観客の顔に押し付けている。