『ほつれる』ネタバレ

 主演の門脇麦はこの映画の主人公が好きじゃないそうだ。
 そりゃそうなんで、不倫相手の男が目の前で交通事故に遭ってんのに警察に通報せずに立ち去っちゃうのだ。そりゃ好きになるわけない。
 不倫だから秘密にしなきゃならないし、白昼の東京だから誰かが通報するだろうし、だけど、ありなのかなぁ。
 で、そこから話が始まるので、純愛ではありえないんですよね。見殺しなんだから。とっさの判断で、結婚生活の方を選んじゃってる。
 旦那と疎遠なのは冒頭から分かる。けど、よくよく聞いてみると、この旦那とも、もともとは不倫関係、いわゆる略奪愛。ってことは、おんなじ事を繰り返してる、果てに取り返しがつかなくなってる。
 でも、そういうことを正面切って非難できる人がどれだけいるかなぁ。まぁ、そういうことを非難できるまっすぐな人が、だいたい今までの映画の主人公側の人たちだったわけだけど、そっちじゃなくこっち側の人が主人公なのが面白いです。
 特に旦那をやってる田村健太郎が出色。サイテーっちゃサイテーだし、マザコンっちゃマザコンかもしれないけど、でも、現在の日本で世間的な成功者のイメージってこの域を出ないんだって、改めて納得させられる。
 不倫相手と旦那と、こんな感じのトレードオフで男を選ぶのが、女にとって、別に珍しくなくありふれたことじゃないかって思わされる。
 黒木華古舘寛治もさりげなく良い。リアルにどれくらい肉薄できるか、どれくらい深く釣り糸を垂らさられるかは、物語にとって重要な価値だと思うので、観た甲斐があった。『福田村事件』の翌日に見たのだけれど、2日続いていい映画体験をしたと思った。


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