『ぼくのお日さま』ネタバレすぎ

 奥山大史監督の前作はまだ在学中に撮った『僕はイエス様が嫌い』で、サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を史上最年少で受賞した。だけでなく、にもかかわらず、あっさり就職して話題になった。
 そりゃ映画監督で食える人なんて一握りなんだし、堅い本業のかたわらで映画制作を続けるって選択は実のところクレバーではある。一昔前の小椋佳のやり方だが、小椋佳は銀行マンって仕事が気に入っていたらしい。
 『ぼくのお日さま』の登場人物たちも、そんな作り手の人格を反映したかしないか、叫んだり喚いたりとは無縁の人たちが多い。
 主人公は『僕はイエス様が嫌い』と同じく北国の小学生の男の子、ともいえるが、池松壮亮が演じるフィギュア・スケートのコーチだとも言える。少なくとも、観客の視点はこのコーチの側にありがちだ。
 舞台はどこと特定されていないが、どうやら小樽らしく見えた。北国で暮らしたことがないので事情がわからないが、北の小学校では冬場はウインタースポーツが授業に組み込まれるってことらしい。初雪が降ると来年の春までウインタースポーツの季節になるらしい。
 小学生のタクヤは何となくホッケーをやっていたのだけれど、同じスケート場でフィギュアスケートをしているさくらに見惚れてホッケー靴のままフィギュアの真似をしているところをさくらのコーチ(池松壮亮)に見つかってフィギュアスケートを教えてもらうことになる。
 コーチはタクヤの子どもらしい恋心を微笑ましく思ったわけだった。ところが、さくらはさくらでコーチにほのかな恋心(とまでいえないほどかもしれない)を抱いていた。
 めきめき上達するタクヤを見て、コーチはさくらとタクヤにペアのアイスダンスに出場することを提案する。競技人口の少ないアイスダンスの方が有利だから。
 この2人のアイスダンスがすごくキュートなのだけれども、キャストのプロフィールを見ると、2人とも4歳からフィギュアを習っているのだそうだ。実際には池松壮亮よりプロなわけだ。
 でも、さくらはコーチとタクヤの待つ選考会の会場に現れなかった。タクヤはさくらがなぜ来なかったのか知らない。
 さくらはコーチと恋人(若葉竜也)がいっしょにいるところを見てしまった。それで、ここが本当にうまいと思うんだけど、さくらはコーチのタクヤに対する思いを勘違いしてしまったわけ。中学生の女子の思いとしてすごく自然で責められない。
 タクヤの恋を応援してやろうとしたコーチの思いは裏目に出たことになる、だけでなく、もうここにはいられなくなる。
 春になって彼はここを去ることになる。恋人と別れたのか遠距離で続けることになったのかはわからない。タクヤは中学に上がってふたたびさくらと出会う。
 あらすじとしてはこれだけ。小学6年生の淡い恋だからこれ以上のことは何も起こらない。
 こういうリリカルで繊細な映画を撮り続けようとした場合、一方で何か仕事をしながら、時折り、撮ることにしようという選択は実に正しいのだろう。
 前作からポストプロダクションにはすごく気を遣っていて、映像も内容にふさわしくとても美しい。
 これが商業的にどれくらい成功するのかわからないのだけれど、『侍タイムスリッパー』とはまた別の、これもまた映画愛に満ちた、丹念に磨き上げられた映画だと思う。


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