『ラストマイル』は言わずと知れたメガヒット。つまりふだん映画を観ない人たちが見に来てる。これは、『MIU 404』『アンナチュラル』で、監督の塚原あゆ子、脚本の野木亜紀子、そして新井順子プロデューサーというチームの仕事の積み重ねがファンの信頼を獲得してきた結果に違いない。
そりゃ、星野源、綾野剛、石原さとみ、井浦新、飯尾和樹とテレビシリーズの人気キャラが結集した上に、満島ひかり、岡田将生、阿部サダヲ、ディーン・フジオカって全員主役級ですから。これだけキャストが集まる人望がまず、えらいっていうより、楽しいじゃない?。お祭り感あるわけよ。だから、観客も集まるよね。
この構造ってオードリーの東京ドームと似てる。あのチームが何かやるなら行こうよって人たちがすっごい数いるわけですよ。チーム・MIU 404であり、チーム・アンナチュラルのファンが何かあると集まってくれるっての大事にしなきゃいけないと思いますね。
だからまあ別に苦言言わなくてもいいんだけど、このテーマっつうかモチーフっつうかは『ノマドランド』が先鞭を付けてるので、あの深みに比べちゃうと、見劣りはするのです。
でも、それは良いとしても、ドラマとしてまずかったのは、犯人の側にドラマを持ってっちゃったことだと思う。
これは、こないだYouTubeのホイチョイ的映画生活で、『踊る大捜査線』の亀山千広プロデューサーが、まず『太陽にほえろ!』でやったことはすべてやらないと決めたと言っていて、1、あだ名で呼び合わない、2、たった7人で捜査会議はしない、3、音楽に合わせて聞き込み、張り込みをしない、4、犯人に感情移入しない。
この原則に、『ラストマイル』が従わなきゃならないいわれはないものの、今回の犯人に感情移入しちゃったことで、何かこう乗り切れなかった感はある。
つうのは、今回の犯人に同情できますか?。恋人が過労死した。だから?。爆弾で関係ない人たち殺していいの?。そんなわけないじゃん。そんな犯人に感情移入できるわけないじゃん。犯人は、単に、頭おかしい女で良かったわけですよ。そうすると、『MIU 404』と『アンナチュラル』のシェアード・ユニバースとしてストーリーにもっとドライブ感が出たと思う。
犯人に同情するかどうかは観終わった後、観客が決めりゃいいことで。
主役の満島ひかりには、3人の女性クリエーターのバリバリぶりが投影されていてすごく良かっただけに、犯人側にドラマを持っていったのは、納得できないし、古めかしい感じがした。
謎解きのテンポも良かったし、もっとエンタメに振り切ってやった方が逆にテーマも浮き上がったんじゃないかって気がする。
その良い例が白石晃士監督の『サユリ』。この日曜日に観たんだけどほぼ満席。もちろん興収は『ラストマイル』に遠く及ばないとは思うが、白石晃士流の笑えるホラーに徹しながら、sexual abuseについて考えさせる。隣の席にすごい美人が1人で来てたんだけど、泣いてました。
ほとんどの観客は笑ってると思うんだけど、泣ける人は泣けるのもよくわかります。サユリに、私は同情しないけど、シンパシーを感じる人もいて当然です。
原作はマンガだそうだけど、もし、この映画のままのストーリーなら相当なB級コンテンツだわ。これを映画化する白石晃士監督は一廉のものですね。
根岸季衣がチョー面白かったです。さすがは劇団つかこうへい事務所の初期メンバー。コメディってできる人はできるけどできない人はできないからなあ。