夢からの手紙

夢からの手紙

夢からの手紙

よい短編を読みたいという気持ちはコレクターの心理に近い。
お茶席でお茶碗をひっくり返してためつすがめつして見たりするのは、よく知らないけど多分作法のひとつなのだろうけれど、しかし、もし茶器のコレクターならばそれが作法に反するとしてもそうしてしまうと思う。
短編を読み終わった気分もそれに近い。「けっこうなお点前で」とはいわないけれど、「やられた」とか「そうきたか」とか一人でつぶやいていることはある。
辻原登にはけっこうペダンティックなところがあり、端々に博識ぶりがのぞく。そういうところもまたフェチズムをそそるところ。
著者初の時代小説短篇集だそうだ。舞台は大阪。西鶴に題材をとったものもある一方で、表題作は西洋の小説を換骨奪胎している。
「おとし穴」は太宰治も同じ西鶴作品を短編にしていたはずだと思うが、まるで違った味わいになっていた。
太宰は士族なのですこし武士よりに書いているということなんだろうか。どっちかというと、辻原の方が大阪っぽいかなぁとか。そういうことを言うと元も子もないか。