ユビュ

新橋にある松下電工汐留ミュージアムのコレクションは、つまりルオーなので、ルオーの展覧会をやってますといわれても、常設展示の並べ替えね、みたいな感じで、つい見過ごしてしまっていたのだけれど、今回のユビュは、ポスターに使われている<マリココ>を見て、おや、という感じでブラウジングのホイールを停めた、ルオーってこういう絵だったかなって。
ステンドグラス職人という出自が先入観になってか、ルオーの絵は、色面の構成で、その黒は、線というより枠として、面に従属しているように見えていた。漆黒の闇の中から盛り上がる立体感がルオーの絵だと思っていた。
しかし、このユビュのシリーズでは、ルオーの線の美しさを堪能することができる。
マリココ>もそうだが、<解放された黒人>や<バンブーラ踊り>の伸びやかな肢体。
とくに『ユビュおやじの再生』の扉絵に用いられた<呪文>は、まるで、一本の熱帯の木から人間が生えてきているように見える。墨の太い線が力強く淀みないからだ。
それは、たとえば、仙がいや白隠などの禅僧の墨痕を連想させさえするが、生命感と無心さは、はるかに彼らを超えていると思う。
<結婚>や<二人の裸婦>のなまめかしい線は、禅僧たちにはけして描けないだろう。
‘知られざるルオー’とサブタイトルにうたわれているように、世界初公開のものも含む。ルオーの印象を上書きする展示だと思う。