スゴンザック銅版画集

knockeye2010-12-18

 関東平野の冬の空が、今日の空のようによく晴れていることの意味を、ちゃんと理解できている人はそんなにいないだろう。
 北陸の鎖された冬を、何年か経験すると、春の訪れがいかに劇的なことかわかる。
 冬が去って、春がやってきた朝は、まちがいようがない。きのうまで銀だった朝日の色が、ある朝、黄金に変わる。その日が春の第一日で、その日からやっと季節が動き出す。
 北陸の空を鎖して、一年の三分の一を奪う冬の、重たい雪を知っている私には、この地方の明るい冬空の持つメッセージは、実際よりずっとまぶしい。
 町田の国際版画美術館に「スゴンザック銅版画集 ウェルギリウス『農事詩』によせて」という展覧会を見に出かけた。 
 アンドレ・デュノワイエ・スゴンザックは、南仏への旅で訪れたサントロペの風光に魅了され、1920年代末から1947年をかけて、ウェルギリウスの詩をテーマに、全119点からなる銅版画集『農事詩』を完成させた。

 この絵は<鎌を持つケレス>。
 この美しい背中と乳房、そして、構図の頂点に鋭く弧を描いている鎌は、愛と拒絶の同時性を物語っているように見える。激しいあこがれと、深い絶望。
 愛が決定的に拒まれている瞬間にこそ、美はもっとも切実に胸に迫るのかもしれない。美とは何かということにもよるけれど。
 美術館のある、芹ヶ谷公園の落葉のにおいに誘われて、展覧会はつい後回しにしてしまった。

 公園の奥に、大きな噴水が動いていた。


 私は強ひられる――

私は強ひられる この目が見る野や
雲や林間に
昔の私の恋人を歩ますることを
そして死んだ父よ 空中の何処で

噴き上げられる泉の水は
区別された一滴になるのか
私と一緒に眺めよ
孤高な思索を私に伝へた人!
草食動物がするかの楽しさうな食事を