『アイミタガイ』

 久しぶりに風邪で選挙にいかなかった。
 そういう病み上がりの頭には静かに沁みる。
 田口トモロヲ
「職業柄、本を読むことが多いので、善人ばかりしか出てこない本は嘘くさくて嫌いでしたが、今はそういうものを信じたい」
というセリフが、この映画を鑑賞する時にとるべき態度を示している。
 予告編を見ると、黒木華が演じる主人公が、亡くなった親友のスマホにメッセージを送り続ける。そのことで何かが起きるようにもとれるが、本編を見ると実はそうではなくて、ストーリーは寄木細工のように繊細なパーツの組み合わせで出来上がっている。
 ウエルメイドというにはよく出来すぎている、というか、出来が良すぎる。ウエルメイドという場合、プロットの辻褄が合わなくなって、苦し紛れにありえないような偶然で間に合せたという印象の作品がほとんどだが、この作品の場合、徹頭徹尾そんな偶然だけでプロットを綴っている。
 登場人物たちはそんな偶然の部分しか見えないが、観客にはその全体が見える。そのせいで、自分たちは知らないだけで、どこかでそんなバタフライエフェクトが働いているかも、と思いを馳せる気になる。
 日常的な些細なことと些細なことをつなぐその意外さがすごくうまい。『台風家族』(19)の市井昌秀が脚本の骨組みを作ったそうだが、あの映画は登場人物があまりにも類型的で草薙剛新井浩文MEGUMIなど芸達者を揃えながら、さすがに人物にリアリティを持たせえていなかった。が、奇想天外なストーリーの飛び方には笑わされた。今回はそういう気質がうまく作用したのだろうと思う。脚本には監督の草野翔吾と故人の佐々部清も名を連ねている。
 キャストも主演の黒木華をはじめ、草笛光子風吹ジュン田口トモロヲ西田尚美松本利夫中村蒼と豪華。なだけでなく、水玉れっぷう隊のケンが出ていたりする。
 O・ヘンリーとかサキとかの、嫌味のない落とし噺に味わいが似ているかも。
 尖っている若い人には向かないかもしれないが、意外に、今はこういうものが観たい気がする。


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