コージェネレーション先進国へ

 再生エネルギー促進法案と、すでに成立した原子力損害賠償支援機構法は、両立が難しいと思う。原発事故の賠償も国民負担、再生エネルギーの普及も国民負担、というようなことが可能だろうか?
 菅直人というひとは、自分の首と引き換えの再生エネルギー促進法案にもかかわらず、その成立のさきに、それを骨抜きにする法律を成立させたように見えるのだけれども・・・。
 そもそも、東京電力が破綻したからといって、連鎖倒産のリスクがあるわけじゃなし、東京電力を通常のルールで破綻処理していけない理由はない。
 日本航空と同じく、会社更生法を適用すれば、株式が100%減資され、債権も大幅にカットされる。原子力損害賠償支援機構法が、賠償のために必要だったとは思えない。
 それよりも、東京電力の破綻の後に予想される、送電網の解放、それによる電力の自由化を、何としても阻止したかったのだろう。誰が?それは、独占する権益を失いたくない電力会社、権限を手放したくない官僚、そして、電力会社の労使双方から送り込まれている自民党民主党国会議員たちだ。
 以上に書いたことは、ニューズウィーク池田信夫の記事を参考にしている。‘電力自由化は「支配構造」解消から’という誌上の記事と、
盛り上がる「東電解体」論議で発送電の分離は実現するか
そして、
発送電の分離はエネルギー産業のイノベーションを生み出すか
という記事。

 欧米では1980年代の通信自由化に続いて90年代には発電所と送電網の分離が進められた。日本でも2000年代に、経済産業省が割高な電気料金が日本の製造業の競争力をそいでいることに危機感を抱き、送電網を電力会社から分離する発送電分離を仕掛けたことがある。

 しかし電力会社は、強力な政治力でこれに抵抗した。9電力全体で10兆円以上の売り上げをもつ電力会社は財界の中心であり、各選挙区でも最大級の企業である。豊富な政治献金と労使から出している系列議員の力を使い、マスコミにも多額の広告費を出すことによって批判を抑え込んできた。

 電力会社の自民党への献金についてはすでに書いた。
 池田信夫は、この状況が、かつての通信業界に似ていると指摘している。90年代後半に電気通信事業法が改正され、アクセス網の開放が義務づけられなければ、ソフトバンクの加入もなく、現在のような低価格のインターネット網が普及することもなかった。
 通信の自由化に電電公社の民営化が必要だったように、電力の自由化を成功に導くには、電力インフラを切り離すだけでなく、東京電力の政治的な支配力を殺ぐことがどうしても必要だ。
 だとすれば、東京電力の支配構造を温存した、原子力損害賠償支援機構法の成立は、電力自由化を阻止する強力な予防線となるだろう。
 ‘やらせメール’どころではない。原子力損害賠償支援機構法を成立させた国会審議自体が、大きな意味でやらせなのだ。
 既得権益を守ることにきゅうきゅうとして、挑戦する心を失なうと、時代のうねりが見えなくなる。
 内部被曝の被害が顕れるのは、一年や二年先のことではない。十年、二十年にわたって、被災者や避難民の被害が、文字通り、酸鼻を極めたとき、官僚、政治、そして東京電力に襲いかかるその怒りの大きさを、おそらく彼らは想像できない。
 政財官の癒着構造が、電力の自由化を阻止して、公正な競争より既得権益を優先した結果がどうなるか、似たようなことを、この20年に、私たちはいやというほど目にしてきたはずだ。無意味な規制に保護された業界は、国際的な競争力をなくし、やがてガラパゴス化する。
 ここまではおなじみの光景だが、池田信夫が非凡なのは、コラムの最後をこう結んでいることだ。

 しかし孫正義社長が電力業界の状況を理解すれば、天然ガスなどの効率の高いエネルギーで電力会社の秩序に挑戦し、「日本の奇跡」を起こすことも夢ではないだろう。

 電力の自由化を促すもう一つの要因として、ガス業界の進化がある。
 計画停電のときにもすこしふれたが、すでに、ガスヒーポンなどを設置することで、冷房はガスでまかなえる。のみならず、空調を使わないときは、そのシステムを使って発電ができる。のみならず、その排熱も捨てられることなく給湯に使える。
 エネルギーを効率的に使う、こうしたコージェネレーション・システムの、日本における導入累計は、2010年度で944万キロワット、国内の発電量に占める割合は2.1%程度、ドイツの12.5%はいうまでもなく、イギリスの6.4%に比べてもまだまだすくない。
 ところが、家庭用コージェネレーションに限れば、日本は世界の最先端にいる。「週刊エコノミスト」の折口公彦の記事によれば、「エコウィル」「エネファーム」など、都市ガスで発電し、給湯し、空調するシステムは世界に類例がないという。
 エネファーム燃料電池を使い、排熱効率は50%だが、発電効率40%。エコウィル発電効率26.3%、排熱効率65.7%で、総合効率は92%に達している。
 試算によれば、四人家族想定で、従来型のガス機器と電力会社からの電気を併用する場合に比べて、年間の光熱費を5〜6万円削減でき、一次エネルギー消費量は約35%、CO2排出量は約48%、それぞれ削減できる。
 それだけではない。
 財部誠一このコラムによれば、東京ガスは、あれだけの大地震にもかかわらず、ガス設備そのものへの大きな損傷はなく、2次災害も皆無だった。

 皆無とはなかなか言えるものではないはずだと、岡本(東京ガス社長)に尋ねると、こんな返事が返ってきた。

「たとえば火事は、私の知る限り1件も出ていませんし、ガスが洩れたことによる何らかの被害もありません。唯一、仙台市内で都市ガスを製造している工場が、津波で電気系統に被害を受けて操業不能になり、仙台市全体でガスが供給停止になりました。しかし、新潟から来ているパイプラインの損傷はなく、速やかに供給を再開できたので、ガスインフラそのものは非常に強靱であることを証明できたと思います」

 この背景には、阪神淡路大震災の苦い教訓がある。あの当時のことを憶えている人もまだ多いはずだ。ライフラインのなかでも、ガスの復旧は遅く、プロパンガスに切り替えた人も多くいたと記憶している。

阪神淡路の時には、マイコンメーターによる自動停止機能がまだ完全には普及していませんでしたが、今では全国でほぼ100%近く普及しています。また、パイプそのものが強靱なポリエチレン管に順次変わっている上に、東京ガス管内で言えば約4000箇所に感震装置が設置されています。震度ではなく、加速度をもとにした係数で、一定の規模以上の地震を感知すると自動的に止まるのです。そのように、被害が起こりそうな時にはガスを止めるという機能がほぼ完全に普及していることもあり、ガスが流れ続けて火事になるということが皆無だったのは、非常に大きいと思いますね」

 計画停電といいつつ、病院や交通信号まで止めてしまう東京電力と比べてみるといい。すでにお気づきのことだと思うが、岡本社長がインタビューで口にしている「マイコンメーター」は、電力におけるスマートメーターそのものだ。
 政治の無策、官僚の奸策、東京電力の怠慢のために、スマートグリッド後進国と蔑まれ嘲われている日本だが、ガスのスマート化という視点に立つと、世界に冠たる未来都市である。ガス版のスマートグリッドというべき‘スマートエネルギーネットワーク’は、すでに、東京の荒川区において実証設備が稼働している。
 また、供給量という点でも、取り出すのが困難だった非在来型ガス「シェールガス」に採掘可能のめどが立ったために、世界の天然ガスの可採年数は、すくなくとも100年を越えることが確実になっている。米国エネルギー情報局(EIA)の推定によると、シェールガスの技術的回収可能資源量は188兆立方メートル、これは、これまで世界全体で確認された在来型ガスの採掘可能な量とほぼ同じだそうだ。2008年には、米国における1日あたりの天然ガス産出量の50%が、シェールガス、コールベッドメタン、タイトサンドガスの非在来型ガスとなった。
 シェールガス革命と呼ばれている。80年代から地道な技術的挑戦を続けてきた、ベンチャー企業のチャレンジがこれを可能にした。10年度からは、三井、三菱、丸紅、住友など、日本の総合商社もこのプロジェクトに参入している。
 福島の原発事故直後、ロシアがLNGの提供を申し出たが、その背景として、ガスの供給量が需要に対して大きくなってきていることがあるのは確かなのだろう。当面、火力発電の比率が上がり、ガスの消費が増えたとしても、さほど値上がりそうにないのだ。
 つまり、電力ではなく、ガスを、不安定さを補うエネルギーとして併用すれば、太陽光発電などの自然エネルギーの普及はかなり現実味を増す。将来的には、家庭用の電力に、現在の電力会社は要らなくなる可能性がある。70年代の腐りかけた送電設備を開放してくれなくても、自然エネルギーで発電した電力が、ガスのネットワークで効率よく配電される。そうした将来にむけて、声を上げていくことが必要だと思う。

エコノミスト 2011年 6/21号 [雑誌]

エコノミスト 2011年 6/21号 [雑誌]

完全保存版Newsweek日本版 原発はいらない 2011年 8/5号 [雑誌]

完全保存版Newsweek日本版 原発はいらない 2011年 8/5号 [雑誌]