『ジョジョ・ラビット』と『リチャード・ジュエル』にサム・ロックウェル

 この週末に観た映画のふたつにサム・ロックウェルが出ていた。『スリー・ビルボード』でアカデミー助演男優賞を受賞して以来のってるみたい。
 サム・ロックウェルは、個人的には、ダグラス・アダムズ原作の映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』のメインキャストだったのが印象に残っている。あれはなんといっても原作がすっごく面白い。未読の方は読んで損はない。
 ただ、映画化は、スター・ウォーズなみのお金をかけないと無理だと思う。あの、最後の脱力的なオチに向けて、その規模の予算をかけられるかどうか?。かければ面白いと思うけど。映画版は、アニメ大国の日本人としてはマーヴィン(アンドロイド)の造型に納得がいかなかった。

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

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宇宙クリケット大戦争 (河出文庫)

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宇宙の果てのレストラン (河出文庫)

宇宙の果てのレストラン (河出文庫)

 ほんとは5巻まであるけど、個人的には、4巻で完結していると思っている。
 
 それはともかく、まず、『ジョジョ・ラビット』。スカーレット・ヨハンソンは、これと『マリッジ・ストーリー』のどちらかで、今年はアカデミー賞を獲ると思う。予想では、こっちでアカデミー助演女優賞だな。
 主役は、タイトルのジョジョという10歳の男の子、配色濃厚なドイツの町で、ナチスヒトラーに憧れて生きている。ちなみに、敗戦時に10歳ってのは、ドイツと日本で多少ズレはあるものの、小林信彦さんの世代と重なっている。そう考えるとこの少年を身近に感じられる。妹尾河童の『少年H』をあげるべきかもしれないが、あの映画は悲惨だったので。
 オープニングがすごくうまい。ナチスに熱狂する人々の様子(たぶん当時の実際の映像)に、ビートルズの「抱きしめたい」がかぶるのだけれど、これがドイツ語バージョンなんだ。ビートルズを知らない世代のために説明しておくと、彼らはデビュー前にハンブルグで活動していた。その縁もあって何曲かドイツ語で吹き込んでいる。
 その「抱きしめたい」が重なることで、当時、10歳だった少年のヒトラーへの憧れがどんなことだったか、よくもわるくも、すんなりと観客の腑に落ちる。
 サム・ロックウェルの演じるキャプテン・クレンツェンドルフ大尉は、戦争で負傷して、いまはドイツ少年団の教官をしている。ジョジョもその少年団の一員。スカーレット・ヨハンソンジョジョの母親ロージーを演じている。
 この2人の大人がとても魅力的。子供時代を戦争に奪われたジョジョの世代が、戦争で一番傷ついた世代だと思う。自分が受けた傷にさえ気付いていない。自分の傷の深さに気づいたときには、呪詛をぶつける大人たちはもういない。
 しかし、ファンタジーかもしれないけれど、ジョジョが大人になったときに、あの人がいたから生きてこれたと思える大人がいたとしたら、この子の遠い希望になってくれた大人がいたとしたら、それはどんな人だったでしょうか?って感じの映画です。

 『リチャード・ジュエル』については、この事件はよく憶えている。というのは、この事件が起こったのが1996年、アトランタ五輪なんだけど、日本では、その2年前に松本サリン事件があった。事件そのものの日付けは1994年だが、この真犯人がオウム真理教で、松本サリン事件発生当時、第一通報者だった河野義行さんを犯人だとして吊し上げたのは、警察による冤罪でありマスコミによる誤報だったとわかったのは、地下鉄サリン事件が起こった1995年だったので、実際の感覚としては、松本サリン事件の翌年に、このリチャード・ジュエルの事件が起こったという感じだった。
 しかも、構造があまりに似ている。第一通報者というだけで容疑者にする警察。警察のリークだけでろくに取材もせず、犯人に仕立て上げるマスコミ。ちなみに、今に至るまで、長野県警も報道各社も河野義行さんにひとことの謝罪もしていないと記憶している。もしかしたら、どこかでひっそり謝罪しているかもしれないが、大々的な誤報にひっそりと謝罪は、謝罪というより有耶無耶にしたってだけのことである。とにかく、わたしはあの事件以来、新聞を読むのをやめた。これくらい後悔しなかった決断は、個人的には珍しい。
 そのリチャード・ジュエルの事件だが、しかしながら、これをいったいどうやって映画にするんだろうと、見当がつかないでいた。骨格があまりにシンプルだし、ひねりの効いた展開なんてないんだし。だが、そこはやっぱり、巨匠クリント・イーストウッドだった。リチャード・ジュエルを演じたポール・ウォルター・ハウザーと、その旧知の弁護士を演じたサム・ロックウェルの痛快なバディー・ムービーとになっている。この2人のデコボコぶりがさりげなくおかしい。


映画『ジョジョ・ラビット』本編映像


映画『リチャード・ジュエル』本編映像(尋問編) 2020年1月17日(金)公開


映画『リチャード・ジュエル』インタビュー映像(クリント・イーストウッド) 2020年1月17日(金)公開