いったん辞めると言ったからには、それが二年先だろうが、二日後だろうが、‘一定のめど’という菅直人の表現が妥当だと思うのだけれど、この辞任の時期についての綱引きの、綱の両端を握っているのは、はたして誰と誰、あるいは、何vs.何なんだろうか?
正直言って、わたしには何が何だかさっぱりわからない。その意味では、何がわからないのかをはっきりさせておくことも意味があるのかもしれない。
まず、なぜ今になって突然、菅直人おろしが勢いづいたのか、よくわからない。
菅直人に能力がないことは、参院選に惨敗したあたりで、すでにわかっていた。なぜ、今なんだろうか?
これがわかりにくく見えるのは、5月31日のエントリーに書いたことだが、‘海水注入の中断’という東京電力の‘隠し球’が失敗したからではないかと見ている。
東京電力が描いていたシナリオどうり、海水注入が中断されていて、それを官邸の責任になすりつけられていたら、菅直人をひきずりおろす大義名分は、たしかに整っていたはずなのである。
大前研一の最新のブログがこれについて書いている。
http://www.ohmae.biz/koblog/viewpoint/1676.php
吉田所長を処分するなど、とんでもない話です。
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万一、彼を処分するという事態になれば、彼と一緒に現場で死力を尽くして働いている仲間たちも「それならば一緒に現場を去る」と決断する可能性は高いと私は思います。
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むしろ処分すべきは、原子力安全委員会の班目委員長と東京電力の武藤副社長の側だと声を大にして言いたいと思います。
また、大前研一は、以前、原子力発電プラントの開発技師だったので、
・・・私が同じ立場でも、官邸から何を言われようが、殺されるまで 注入をやめることはないと判断したと思います。
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「海水注入の中断によってメルトダウンにつながった」と政府を批判していた自民党の谷垣総裁にとっては赤っ恥ですが、とっくにメルトダウンは起こっていたのですから、私に言わせれば関係ありません。
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実際には、東電の上役が「官邸には一時中断します」と言いながら、現場には海水注入の継続を指示していた可能性も高いのではないかと見ています。
上の推察は、自民党の谷垣総裁と東京電力(あるいはその周辺にひろがる、いわゆる‘原子力ムラ’)になんらかの連携があったことを推測させる。なんといっても、原発推進に責任があるのは、むしろ、自民党なわけだから。
そう見てくると、逼塞していた小沢一郎が、なぜ、いま動き出したのかもかんぐりたくなる。いいかえれば、小沢一郎に、かすかな勝算をにおわせたのは何だったか。
小沢一郎の脅しが効いたのは、菅直人よりも、むしろ、鳩山由紀夫だったようだ。鳩山由紀夫が懼れた最大のことは、小沢一郎が党を出ることで、民主党が分裂することだったろうと思う。彼には、党のオーナーという意識が強いのだろう。党の分裂をちらつかされたからこそ、めずらしく強く出ているのだろう。彼がもっとも大事に思っているのは民主党という党であることは、人情としてはわかりやすいが、政治家としてはみみっちい。
谷垣禎一自民党総裁が、菅直人が辞めれば、‘与野党を超えて新しい体制をつくる工夫はいくらでもできる’と発言したことも、なんだかよくわからないことのひとつだ。
自民党の山本一太、みんなの党の小野次郎と、鳩山由紀夫と歩調を合わせて、民主党の代議士会や、その前の密室協議の内容まで踏み込んで、国会で問いただしているのも、まったくわけがわからない。
野党にとっては、菅直人が民主党の代議士会や、鳩山由紀夫との対談で、何を言ったかではなくて、国会と無関係の場で、首相の進退が決められることこそ問題であるはずだと思うのだけれど、それはまったく気にならないらしいのは、今回のことがいかに国民不在の政争劇であるかが、あまりにもはっきりわかって情けない。
しかし、もし、自民党と民主党の一部がすでに通じているというのであれば、山本一太と鳩山由紀夫が足並みを揃えるのはむしろ当然なのである。
‘一定のめど’が、二年先か五年先かは、どうでもいいのだけれど、とにかく退陣を表明してしまった今は、政治家たちにとっては、次が誰かがとても重要なんだろう。
しかし、私たちにとっては、そのことで政治がどちらに向かっていくかの方が重要だ。
東京電力は、救済される方向へ向かうのか、それとも解体されるのか。原子力発電は、廃止されるのか、それとも、推進されるのか。
そういうことが明らかになったときに、上にあげた謎の多くが腑に落ちると思うが、そのときにわかっても、もうどうにもなららない。
今がとても大変なときなのはわかっているが、もし、いま解散総選挙が行われるなら、それはそれでよいことだと思っていた。
震災の被害を受けた人たち、避難所で暮らしている人たち、大きな価値観の転換を余儀なくされた私たちが、総意としてこの国をどのような将来に導いていくべきかを真剣に議論するには、やはり選挙しかないと腹をくくるべきなのだ。
菅直人には、たとえペテンと言われようとも、もう少し‘一定のめど’を引っ張って、解散総選挙に持ち込む手があると思う。鳩山由紀夫の大事な民主党はつぶれるだろうが。
政治家も、小手先の工夫よりも、大相撲の技量審査場所みたいな、ガチの選挙をするべき時なのではないかと思う。