「ハイドリヒを撃て!」

knockeye2017-08-19

 「ハイドリヒを撃て!」は、井筒和幸が「久しぶりに凄まじい戦場を発見した」と絶賛していたので。週刊現代井筒和幸は、とにかくすごく狭いレンジでハマらないと褒めない。
 ナチス占領下のチェコスロバキアに、ロンドンの亡命政府から派遣されたエージェントが、ナチスのNo.3だったハイドリヒを暗殺しようとする。
 監督のショーン・エリスは、監督と脚本だけでなく撮影監督も務めた。全編16mmフィルムで撮られているそうだ。銃撃戦の大聖堂も、レジスタンスが拷問された地下室も現存する建物を使い、内部も史実に忠実に再現した。
 主人公のふたりヨゼフ・ガブチークとヤン・クビシュのキャスティングが絶妙だと思う。ヨゼフ・ガブチークは、「ダークナイト」や「麦の穂をゆらす風」に出ていたキリアン・マーフィが演じている。この人はもうすぐ公開される「ダンケルク」にも出ている。ヤン・クビシュは、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」のグレイだそうだ。言われるまで気がつかなかった。
 プラハでふたりとコンビを組むレジスタンスの女性を演じたアンナ・ガイスレロヴァーとシャルロット・ルボンもキャラクターが粒立っていた。アンナ・ガイスレロヴァーは、チェコの国民的なスターだそうだ。
 というわけで、映画は間違いなくオススメ。だが、政治の現実については考えさせられた。この事件の報復として、チェコスロバキアの人たちが1万七千人も殺害された。映画の中でも暗殺に消極的な意見が描かれているが、報復は予測できたことだった。
 しかし、その一方で、この作戦が、イギリスとフランスに「ミュンヘン会談の内容を破棄させた」。とクレジットに出るので、調べてみたが、なんとか戦争を回避したいという態度が、ナチスに勢力拡大のチャンスを与えてしまった、というのが、ミュンヘン会談に対する評価のようだ。
 ミュンヘン会談直後の議会で、当時はまだ首相でなかったチャーチルが「・・・われらの護りは恥ずべき無関心と無能にあった・・・これは終わりではない。やがてわれらに回ってくる大きなつけのはじまりにすぎぬ。」と演説した。著書『第二次世界大戦回顧録』の中でも「第二次世界大戦は防ぐことができた。宥和策ではなく、早い段階でヒトラーを叩き潰していれば、その後のホロコーストもなかっただろう。」と述べているそうだ。
 中国とチベットを思い浮かべる。チベットは政治力学の危うい均衡の下で、ほぼ黙殺されているが、このことが第二次世界対戦前夜におけるチェコスロバキアのように「やがてわれらに回ってくる大きなつけのはじまり」になるんじゃないかといった、漠然とした不安を抱いてしまう。
 以下リンク。
ミュンヘン会談
エンスラポイド作戦