今週の週刊文春の表紙は、ピンクの背景に綿の花が五つ。和田誠さんのイラストはいい。昔のハイライトのデザインだけど、あれはやっぱりかっこいいと思う。JTはあのデザインのフォーミュラカーをF1で走らせるべきだ。マイルドセブンよりあっちの方がいい。
それはともかくとして、今週号には今井紀明さんの手記が載っている。去年、高遠菜穂子さん、郡山総一郎さんとともにイラクで拉致された若い人だ。当時彼の元に郵送された批判の手紙をパソコンに打ち込む作業をしているそうだ。私が彼の立場だったら、10年経ってもそんなことができるかどうか自信が持てない。
そう考えても高遠菜穂子という人、あの事件の喧噪がまだ収まらないうちに、事件についての本を一冊書き上げてしまったのは、まったく大した胆力である。あの本の中には、寄せられた手紙も何通か紹介されていた。言うまでもなく読むに耐えない罵詈雑言である。
著書からもわかるが、高遠さんはすでに人生の方向を定めて歩きだしているという印象が強い。あの事件は多くの敵を作ったろうが、見るところ、敵の方はとるにたりず、今となればむしろ、新たに得た味方とお金のほうがより大きいだろう。郡山さんは、報道写真家という職業柄、事件は想定内ではなかったとしても、さほど意外でもなかったはずだ。
今井さんはまだ人生に踏み出したばかりだったという点が、高遠さんや郡山さんと大きく違っている。自分が18の時に何を考えていたか忘れているわけではないが、それが今にどうつながっているかになると、簡単には説明できないし、何より他人にとってそれが少しでも意味があったり面白かったりするわけでもない。今日など、仕事がビミョーに空回りして、家に帰ってみると流し台に突っ張り棒で固定していた棚が蛇口に倒れかかっていて、水道が流れっぱなしになっていて、「あーあ」みたいなことだが、そういう散文的な一日を18の私はもちろん予想していなかった。
劣化ウラン弾を絵本にしようという発想はかなりユニークだと思う。ただ小さな思いつきの前に大きな躓きの石があったわけだ。生きて帰ってきたんだからよい経験として活かしていくこともできるだろう。首切られちゃった人がいるんだもんなぁ。