「愛する人」

knockeye2011-04-02

 映画「愛する人」、原題“MOTHER & CHILD”は、ずっと見たいと思っていたけれど、少しずつタイミングを外して見逃していたのを、横浜のジャック&ベティがやってくれているので観にいった。
 先日、書き忘れていたけれど、「その街のこども 劇場版」を観たのも、この映画館だった。週刊文春で、小林信彦がとりあげていたので観にいくことが出来た。あのとき、本編以外に、関東大震災のときの、横浜の被害を記録したフィルムも同時に見た。ジャック&ベティは、そういう企画もする映画館。
 私は、「リング」のハリウッド版が好きなのだけれど、それは、ナオミ・ワッツの美貌によるところも大きいかなと思っている。
 今回の映画では、自身の妊婦姿も披露している。
 ‘adoption(養子縁組)’をモチーフに、様々な母と娘が登場する。何組の母と娘が登場したか数えてみると、たくさんの母と娘が描かれているのに気づいて ちょっとびっくりする。
 なかでも、私がもっともこころ惹かれた母娘は、ケリー・ワシントンの演じるルーシーと、S・エパサ・マーカーソンの演じるその母、エイダだ。
 メインのプロットとほとんど無関係のまま(最後に重要な関わりを持つことになるが)丹念に描かれていくこの母娘がいるから、アネット・ベニングの演ずるカレンと、ナオミ・ワッツのエリザベスという母娘の関係が、図式としてでなく、現実的なシンパシーを持って見えてくる。
 ルーシーの存在が、‘adoption(養子縁組)’というキーワードが宿命的に持っている、古色蒼然としたイメージを振り払ってくれている。
 私が好きなシーンは、エイダが、子育てに愚痴を言うルーシーに
「Be the mother」
と叱るところ。
 監督・脚本のロドリゴ・ガルシアは、
「母子関係を選んだのは、原点とも言える基本的な関係だから」
と語っているが、結局、母になる女性は、そのことを選択し、決断しているのだし、その彼女たちの決断が、人間社会を成立させている。
 宗教がセックスに課している禁忌は、女たちにとっては、当然侵されるものだし、女は、その禁忌によって守られるが、それを侵す立場の男は守られない。女は無意識にその優位を知っているということだろうか。
 たくさんの母と娘がいる中でも、この映画が語っている物語は、やはり、アネット・ベニングのカレンにある。
 この映画がただのメロドラマではないのは、カレンが家族と自立という二つの価値を取り戻す物語だからだと私は思った。
 社会に対して、責任ある個人として自立することと、その社会が無価値なものでないことの証明として、愛のある家族を築くことは、アメリカ社会が、けして手放さない価値観だろうと私は思う。
 ところで、ジャック&ベティのある黄金町から日ノ出町を流れている大岡川の川筋には、東京の目黒川みたいにソメイヨシノの並木が植えられていて、この週末は、さくら祭りが開かれているのだけれど、今年は、桜が遅く、まだほとんどの桜が蕾だった。
 満開になるのは、来週になるのではないか。