「黄金を抱いて翔べ」

knockeye2012-11-17

 映画「黄金を抱いて翔べ」を観て、そろそろ公式に‘いまんとこ日本映画の方がハリウッドより断然面白いっす’宣言をしてもよいのではないかと思った。
 井筒和幸監督は、大阪を舞台にすると、水を獲たボラのよう。
 この映画が刻むビート(というしかないと思うが、リズムなんて品のいいものではないし)は、ダイナマイトや拳銃や殴り合いだけでなく、団地の壁ひとつ向こうでふつうにくらしている、大阪のおっさんたちの落差から生まれている(「なんや、喧嘩かいな」とか)。
 銀行強盗の相談をしている主人公の会話に、関係ないおばちゃんがツッコミを入れる。やばい電話を切った主人公に声をかける、「ひょっとして、タラバガニの押し売りでしょ」。つまりそこがスティックがドラムを打たないとこ(ビートの裏っていうのかな)で、その抜くところがあまりにもあざやかで小気味いい。映画はそのビートにのって走る。
 登場人物が、街から浮いてしまわないのもそのおかげだし、街が主人公のひとりと思いたくなる。それはほんとうは大阪である必要はないのだけれど、街の印象があまりにあざやかなために、たぶん、大阪に行ったことがない人でさえ、あの街に強く大阪の匂いを感じるだろう。
 公式サイトの監督コメントにある「世界一の労働」。この言葉は、あの街から生まれてくる言葉だと思う。あの街では、‘労働’という言葉がそれこそふたつみっつ別の意味で使われている。‘労働’っていう翻訳語こそ街から浮いている。だからこそ、浅野忠信が「世界一の労働」と口にするとき説得力を持つ。
 妻夫木聡のガッツポーズが決まってる。「悪人」のときよりさらにいいし、浅野忠信は「Helpless」のときを思い出させる。
 ‘これが映画だ’みたいな、そんな‘はしたない’ことはいわないけども。