『落下の王国 4kデジタルリマスター』

 もともと名曲として名高いベートーヴェン交響曲第7番なんだけど、2008年以降は『落下の王国』とともに思い出されるようになった。しかも、第7番の第2楽章なのが渋い。
 石岡瑛子の衣装とともに圧倒的な映像美は記憶していたけれど、あの女の子アレクサンドリアが移民の子で、移民排斥の暴徒たちに父親を殺されていたことは記憶していなかった。というか、2008年当時は移民云々のことが意識になかったかもしれない。東日本大震災もまだで、阪神淡路大震災が100年に一度の大災害だったと思っていた。
 10日で1.1億円を超えたとか。リバイバル映画としては異例の大ヒットらしい。3日前くらいに予約したんだけど、あれ?ってくらい席が埋まっていた。危なかった。
 改めて、すごい贅沢な作り方をした映画だったのがわかった。構想26年、撮影期間4年、13以上の世界遺産、24か国以上のロケーションは伊達じゃない。
 「落下」というモチーフに絡めて美しく構築したシナリオも、ここまで見事に彫琢していれば、もはやウェルメイドとそしる人もいないだろう。しかも過不足なくコミカルだし。
 脚を折って動けないロイがアレクサンドリアモルヒネを取ってこさせようとする。アレクサンドリアが5歳だったのも今回始めて気が付いた。その上英語ネイティブでもないのだから「MORPHINE」の最後の「E」を「3」と間違える。3粒じゃ自殺できない。「何で?」「だってMORPHIN 3」って書いてあるから。
 それを言っちゃ野暮だけど、アレキサンドリアはわからないながらこの薬を持って行っちゃいけないと勘づいている。頭がいい子で医者と母親の通訳も彼女がする。医者が「この子に農作業をさせちゃダメだと伝えて」というのを何と訳したのか、字幕も出ないのだけれど、母親の表情で明らかにウソを伝えたのがわかる。
 2008年に観たときはロイの怪我と失恋の方ばかり見ていてアレキサンドリアの厳しい現状の方は無視していた気がする。それかカットされてたのかな。そんなわけないか。
 アレクサンドリアは五歳なのに大人びていて、ロイは大人なのに子供じみている。だから映画の視点はアレクサンドリアに置かれていてラストのナレーションも彼女がつけている。
 そのせいかもしれないんだけど、私はこれJ.D.サリンジャーの短編「笑い男」を思い出す。そんなに間違ってもないと思う。
 
 ところで、バスター・キートン。『旅と日々』で三宅唱監督は、シム・ウンギョンのたたずまいにバスター・キートンを重ねてみていたそうだ。すべての名作はバスター・キートンに通じている、のか。

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