グレタ・ガーウィグ監督作品は『バービー』しか観てないが、素晴らしい映画だったので悪い印象は持ってない。
でも、ノア・バウムバックが圧倒的に好きで、その印象はごちゃごちゃになってると思うことがあり、ときどき「あれ?、グレタ・ガーウィグって好きなんだったっけ?」となるかも。
グレタ・ガーウィグの出始めの頃の作品を集めて再上映する企画だったみたい。三作品あったうち『ハンナだけど、生きていく!』は見逃した。
というか、「ハンナだけど、生きていく!」ってタイトルだったから見逃した。知らんがな。「タイムスリッパーだけど、生きていく!」なら、ひどいタイトルだとは思うが、意味はわかる。「猿だけど、歌います!」でも、ひどいタイトルだとは思うがわかる。でも、「ハンナだけど、生きていく!」は、知らんがな。なぜなら、ハンナを知らんがな。そんなタイトルつけるなら、ハンナを知ってるやつだけに見せろや。
しかし、これはグレタ・ガーウィグには罪はない。原題は「ハンナ」だから。2007年頃は、こういう邦題がオシャレだったのかも。絶対ちがうと思うが。
だけど、今回いちばん見るべきだったのは『ハンナだけど、生きていく!』だったかも。マンブルコアを代表する作品だったらしい。しかしタイトルがひどすぎて見る気がなくなった。
『ナイツ&ウイークエンズ』は、その『ハンナだけど、生きていく!』の監督のジョー・スワンバーグとグレタ・ガーウィグの共同脚本、共同監督、ついでに共同主演。
今回のグレタ・ガーウィグ特集のウェブサイトによると「ニューヨークとシカゴで遠距離恋愛中のマティとジェームズは、数か月ごとにお互いの家へ会いに行くが、2人の心は徐々にすれ違っていく」とあるが、観客の印象としては、最初からそううまくいってない。そのうち別れるだろうって感じ。
さらに「1年後、別れた2人はそれぞれの道を歩んでいた」とあるが、観客の私の印象としては、これも、別れたってほどきっぱりしてなくて、いつのまにか自然解消みたいになってたのが、男の方がけっこうなセレブになって、雑誌の取材を受けにニューヨークに来る。
そのついでに「会おうか」ってなったみたい。男の方は別れたと思ってない。女の方は別れたつもりだったけど、男がゲームのデザイナーとしてWOW!って感じの出世したってなりゃ、話が違う。
男がシカゴから着てきた私服より明らかにダサいペアルックなんか着させて、ちゃっかり一緒に取材受けちゃう。でも、その夜にフェラなんかヤダって翌朝には別れちゃう。
この映画はグレタ・ガーウィグ本人が脚本段階から関わってるんだが、インタビューによると本人はあんまり好きじゃないらしい。
ジョー・スワンバーグやノア・バウムバックと彼女の関係のパブリック・イメージを思い起こさせるからなんじゃないかと勘繰ってしまう。
シカゴでのピロートークのセリフの中で、女(マティ)は「学生時代に声をかけてくる男達に、あなたたち私がかわいいと思ってるだろうけど、私はそれだけじゃないのよとずっと思ってた。」とかいう内容のことを言う。これは映画のセリフに過ぎないんだけど、妙な具合にグレタ・ガーウィグのイメージに絡まりついてる気もする。
グレタ・ガーウィグは間違いなく美人で、しかも、美人であることを鼻にかけてるように見える。で、そういう役どころを演じることにも長けている。
『バッグヘッド』では、そのおかげで酷い目にあう役なんだけど、『ナイツ&ウイークエンズ』では、「キレイなだけではない」と言いつつ、結局、ちゃっかり美貌を武器にしてしまう、そして、そのことで自己嫌悪に陥ってしまう女を演じてるんだが、だけど、映画としてはそこんとこ、ちょっと言葉足らずで、うまく踏み込めてない。ただの若い男女の痴話喧嘩に見えちゃう。
キレイな女がキレイを武器にしちゃった時の自己嫌悪ってテーマはまさにマンブルコアにふさわしいと思うが、それがうまくいかなかったわけだから、グレタ・ガーウィグとしては見直したくないと思うのも無理はない。
私ら一介の観客が「グレタ・ガーウィグって好きだったんだったっけ?」と一瞬わからなくなる、その感じとすごい近いところにある映画で、それが面白かった。
『バッグヘッド』は、その昔、チャーリー・ブラウンがサマーキャンプの間、紙袋をかぶってた事があったけどビジュアルとしてはほぼアレ。世代的に彼らも絶対あれを知ってたと思う。彼らというのはこれを監督したデュプラス兄弟のみならず、この制作にかかわった全員。だから、この低予算のきわみの企画を思いついたときはワクワクしただろうなと思う。
あらすじは、昔の仲間のひとりが映画を作り上げたことに刺激をうけた4人の男女が、映画の脚本を書き上げようと、知り合いの山荘を借りて合宿をはじめる。ところがその夜、頭に紙袋を被った変な奴が出没するって話。
『カメラを止めるな!』より低予算で、なかなか練れた脚本。ここでのグレタ・ガーウィグはおバカな美女役。これで終わるつもりはないよって感じはおくびにも出さない。そして、のちには大監督になるわけだから。だから、その感じがテーマになってて、しかも、うまくいかなかった『ナイツ&ウィークエンズ』は黒歴史なんだろうな。
