『レッドルームズ』ネタバレ

 ほんとはもう九月末に公開されてた『レッドルームズ』が何となく気になって観に行った。
 カナダ映画なんだけど、舞台がモントリオールなのでフランス語。
 世情を騒がせた少女連続誘拐殺人事件の容疑者が捕まってその裁判が始まったところ。今のところ状況証拠しかないけど、3人の被害者のうち2人の殺害現場を撮影した動画がダークウェブで売られていて、そこに犯人の目だけが写っていたのと、容疑者の自宅近くの空き地から遺体が発見されたのとで、世論はほぼ有罪に間違いないと思っている。
 この裁判をわざわざ裁判所近くに野宿してまで傍聴している女性が主人公のケリー・アンヌ(ジュリエット・ガリエピ)。名の知られたファッションモデルで、しかもネットリテラシーも高くて、合間時間にオンラインカジノでさらっと儲けたりしている。
 そういう彼女が今一番ホットな事件の裁判の傍聴席にいるので、それなりに世間の耳目を集め始める。なぜ彼女が猟奇的な事件に興味があるのか、その謎が観客を最後まで引っ張っていく。
 金髪碧眼の美少女を好むのはわかるとしても、その腕を生きたまま切断してどうして性的に興奮するのか全く理解できない。何度も書いてるけど、私は全くどノーマルで同性愛者の心理ですらわからない。今から考えると我ながら不思議だが、高校生くらいまで同性愛ってのは、タイムトラベルとかパラレルワールドとかと同じようなフィクションの世界の作り事だと思い込んでいた。
 これも前にも書いたが、私自身はまだもの心もつかない、幼稚園にもまだあがらないころに、同性に性的いたずらをされたことがあるにもかかわらず、あれはあの男が私を異性に見立てたんだと思っていた。
 そのくらいまったくのヘテロなので、LGBTQの心理がまるで理解できないぶん、かえってどんな性癖もありうると信じてしまう。生きたまま人を嬲り殺すのが、最も根源的な性的な衝動に結びついているとしたら、そんな人間に社会ができることって排除以外にありえるのだろうか。一見して健康的でセクシーな主人公がそういう性癖を隠し持っているのかもしれない怖いもの見たさ。映画のキービジュアルもそういう不穏さを醸し出している。
 もうひとり、主人公と同じように毎回傍聴に来る女の子がいて、この子は容疑者に対するシンパシーを隠そうともしない。容疑者の性癖へのシンパシーではなく、この子は特に根拠もなくこの容疑者は冤罪だと信じている。こういう存在もいかにもいそうで、日本でも、犯罪者に何とか王子とか名付けてファンクラブまでできてしまう例もあった。主人公と違って無一文のために野宿で傍聴に臨んでいる彼女を主人公は自分の高層マンションに仮住まいさせてやったりする。なので、主人公も容疑者を冤罪と信じて傍聴に通っているのかと観客も思わされる。
 裁判でいよいよ少女たちの殺害現場の動画が流されることになると、遺族の要請でこの時の法廷は陪審員と遺族と関係者のみで行われることになり、主人公と同居人の女も閉め出される。この描写はすごくうまいと思った。この映画は猟奇殺人を扱っているのだけれども、そのもの自体は全編を通して全く見せない。ここでも、法廷の外に漏れ聞こえる音声と、耐え切れずに走り出る遺族や気絶して運び出される陪審員などで残酷さを表現している。
 殺害現場の動画が見られずに悔しがる同居人に主人公はどこから手に入れたのかその違法動画を見せる。ここでも、そのもの自体は見せずにモニターに見入る二人の表情だけを見せる。ショックを受けた同居人は勝手なもので、主人公がなぜそんな動画を入手していたのかという点に不信感を募らせて去る。
 主人公がなぜその裁判に執着しているのかいまだに謎のままなので、その不信感は観客にも伝播せざるえない。ふつう手に入らないはずのそうした動画を持っている女が、その犯人と思われる男の裁判に通い続けている動機は何か?。こいつも犯人と同じ嗜好の持ち主なんじゃないか?。
 って、疑い始めているところに、主人公は犯人が執着した金髪碧眼の美少女に扮して、まだ動画が見つかっていない三人目の犠牲者の制服姿で傍聴席に現れる。まるで容疑者の気を引こうとしているとしか見えない全くの奇行で、彼女はモデルとしての仕事を失ってしまう。
 そりゃそうだろ。頭のねじが一本ねじ切れてんのかとしか思えないんだけど、主人公がどうやって違法動画を手に入れていたのかがだんだんわかってくる。ネットリテラシーが高いのは前々からわかっていたんだけど、彼女はダークウエブにもアクセスしていてそこの違法動画オークションでそれらの殺害動画を競り落としていたらしいことがわかる。いよいよまだ不明だった三人目の被害者の動画がかけられるオークションにも彼女は参加して、大金をはたいてそれを落札する。
 ふつうの神経では耐えられないと思うのだけれど、主人公はその動画を確認したあと、三人目の被害者の家に侵入して、その動画をおさめたUSBメモリーをその子の机の上に置いていく。その動画が動かぬ証拠となって容疑者の有罪が確定する。
 観客の感情曲線は盛り上がらないんだけど、最後に分かったのは、主人公は三人目の被害者の女の子と恋愛関係だったのだろう。犯人のように少女を生きたまま切り刻むことで快楽を感じる変態ではないが、しかし、ただ同性愛ならともかく、相手はまだ十代の女の子なので、それはそれでまた別の意味で反社会的な性交渉だった。だから、主人公はすべてを胸に秘めたまま容疑者の犯罪を明るみに出すことに執念を燃やしていた。
 ふりかえってみると、主人公は3人目の女の子についての個人情報を知っていた(歯の矯正金具が固定式だったとか)。彼女の真似をして法廷に現れたわけもそれで納得できる。いかにネットリテラシーが高いといっても、女の子の家に難なく忍び込めて、彼女の寝ていたベッドまで知っているのは、彼女たちが生前に知り合いでなければありえないだろう。
 猟奇的なホラー映画かと見せながら、実は、シスターフッドのハードボイルド復讐劇だった。ただ、相手が16歳なので、主人公も犯人とおなじく反社会的な性行動で非難されかねない。犯人も主人公も性的にはどちらも反社会的だったっていうのが新しい。主人公自身も犯人と同じく女の子を性的に搾取していたのではないかという内面の葛藤があるのかも知れない。もしくは、そうとられるに違いないことに強い反発を感じている。
 主人公自身がファッションモデルとして、常に性的な視線を浴びる側にいることも大きな意味を持っている。それが彼女にとってストレスと快楽の二面性を持っているはずで、その二面性は、恋愛と性的搾取の切り分けの困難さと結びついている。
 めずらしくストーリーを追うように書いてしまったが、実は、この解釈であってるのかどうか自信がない。主人公のみならず語り口もハードボイルドで主人公の口から謎解きみたいなことは一切されないので、せめて女の子のベッドの上で、もっと性的な執着を表現してくれればこれで間違いないと思うのだけれど、くさい芝居は一切せずに去っていったので。
 

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