ローリング・サンダー・レビュー

knockeye2006-12-18

デンゼル・ワシントンルービン・カーターを演じた『ハリケーン』という映画があるが、その主題歌がボブ・ディランで、たぶん、マディソン・スクェア・ガーデンでのライブの様子も少し挿入されていたと思う。この映画を見ると、アメリカってどういう国なんだろうと首を傾げてしまう。ルービン・カーターは、冤罪で30年間を牢獄で過ごすことになったプロボクサーである。
1975年から1976年にかけて、ボブ・ディランは『ローリング・サンダー・レビュー』と題したツアーを行った。この本はその断片的記録。読んでいる感じとしては、わたしらやわたしらの仲間の書く「ツーレポ」と大差ない。写真がたくさん載っているところもよく似ている。ただし、登場人物がちょっと違う。ボブ・ディランジョーン・バエズアレン・ギンズバーグモハメド・アリ等々。著者のサム・シェパードは、このツアーを映画化すべく脚本家として同行した。しかし、映画の計画は大きく変わって、脚本は役に立たなくなった。それが、この本が成立した事情らしい。映画はのちに(1977)『レナルド&クララ』としてディラン自身の手で編集され発表されたそうだ。
ローリング・サンダー・レビューは、正確には75年の第一期と、76年の第二期に分かれていると訳者あとがきに書いてある。マディソン・スクゥェア・ガーデンは第二期のラストを飾る、ルービン・カーター支援のイベントだが、サム・シェパードが同行したのは第一期のみで、その性格は第二期と違ってアメリカ東部の小さな町の小さな会場を、これといった宣伝もなしに回るという実験的なものだった。
それがなんとなく「ツーレポ」みたいな雰囲気を漂わせているのだ。何しろ、ジプシーの小さな家で、ジョーン・バエズがウエディングドレスを着てアカペラを歌うのである。それをまた撮影クルーが間に合わずに撮っていないというから、素人のツーレポといわれても仕方ない。
サム・シェパードが参加していない76年は主に予算の関係で大きな会場を回ることになったようだが、本来の目的は75年のやり方にあったのだろう。こういう素人くささが私は好きである。
ジョーン・バエズボブ・ディランの描写を読むと、気の弱いわたしは、恋愛小説なんかよりもずっとどきどきする。二人の間に何かがあるというわけではない。音楽以外何もないのだが、恋愛以前のもっと原始的でえぐいことが、公然と行われているような感じがしてしまう。カーペンターズは近親相姦にちがいないと感じてしまうような、そういうあほな感覚と同じである。そういう風に感じることで、何かにブレーキをかけているのだと思う。
ちなみにこのとき、ルービン・カーターの再審請求が受け入れられたが、映画をご覧になれば分かるように、彼が無罪を勝ち取るまでには更に長い時間を必要とした。彼を助けたのはアメリカ人ではなくカナダ人だった。