『やすらぎの森』

 『ノマドランド』が、ドキュメンタリーを原作として、その取材対象をキャストに起用しさえしながらも、まるでファンタジーのような味わいを醸し出していたのも、社会から締め出された老人の視点が、一般に信じられている社会常識を相対化してしまうからだろう。
 この『やすらぎの森』も、もしかしたら『ノマドランド』の成功を受けて公開されたのかもしれない。カナダでの公開は2019年のようだ。アンドレ・ラジャベルはこの映画を遺作にして亡くなっている。
 『ノマドランド』の老人たちはホーボーとして車で移動しながら暮らしていた。カナダの老人たちは、森の奥深くで共同生活をしている。『ノマドランド』の時も、そう言う人がいたが、っていうか町山智浩がそう言ってたんだけど、ヒッピー世代の発想を思い起こしたくなる。という意味では、この『やすらぎの森』の老人たちにもそういう類推は働く。大麻を育てて生活費に当てたりしている。
 しかし、各国の大河をカヌーで旅した野田知佑の本を読むと、アラスカの森には実際こういう人たちがいるそうだ。河を下っていると声をかけられ(猟銃をぶっ放されるそうだが)、夕食を振る舞われたりしたそうだった。
 『ランボー』にもモデルとなったベトナム帰還兵たちがいたとの説もあって、ベトナム戦争から帰国しても社会に馴染めず森の中で生きることを選んだ人たちのドキュメンタリーを観たことがあった。
 なので、こういう生き方は、ありえない絵空事ってわけでもない。どちらかと言うと観客側の生き方を絵空事にして見せる力があると言えるのかもしれない。
 レミージラールのうたが素晴らしかった。森林火災とアンドレ・ラシャベルの施設からの脱走で骨組みをしっかり組み立ててだれさせず情緒に流れない作りになっている。

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