歩いても 歩いても

横浜から京急に乗り換えて少しだけ東京方面に向かうあたり、特にとりたてていうこともないあの辺の景色が、なんとなく心になじむ。海に近くて、河の流れがゆったりとしているのも理由ではあるだろう。
京急の黄金町と日の出町の中間くらいにジャック&ベティという映画館があって、ときどきでかける。東京の単館系で上映していた作品が流れてくるのだ。
今日は、是枝裕和監督の「歩いても 歩いても」。ほんとうは、「幻の光」と二本立てだったのだけれど、帰りが遅くなってしまうので一本だけで帰った。というか、ほんとうはなんとなく一日に二本映画を観る自信がない。その日見た映画をちょっと寝かしておかないと、心の中でかき回したものがちゃんと沈殿させられない気がする。
黄金町でこの映画を観るについては、映画の舞台が京急沿線であるというおまけもついている。あの赤い電車京急だろう。
「たみおのしあわせ」に続いて、原田芳雄の父親役。しかし今回はずっと年齢が上がって72歳。長年開業してきた医院を廃して、樹木希林演ずる妻とふたり、隠居暮らしをしている。映画は、その夫婦の長男の命日に、次男夫婦が帰省して一泊していく、その一日の出来事だけである。普通の昼と普通の夜。
しかし、昼の間に少しずつ刻み込まれた小さな傷が、夜になるとぱっくりと開いて闇の深淵をのぞかせる。もっとも大きな破綻は昼の世界から迷い込んできた一頭の黄色い蝶である。本来、蝶は夜に活動しない。その意味でも、あの蝶はファンタジーとリアリティーのぎりぎりの境界線だといえるだろう。だけど、そのくらいのファンタジーなら、私たちの日常にもけっこう紛れ込んでいるのではないだろうか。
昼の世界の出来事が夜の世界では全く別の意味を持ってきてしまう。題名の「歩いても 歩いても」も、昼と夜とでは全く違う意味を持っている。
隅々まで目の届いた短編小説の味わいだと思う。うっかりレイモンド・カーヴァーのようと言いそうになるが止めている。大体レイモンド・カーヴァーについて私が何を知っているというの。
帰りにヨドバシカメラによって、実は、ソニーのデジカメT700をほとんど買いかけた。もともとスナップ派である私には、銀塩一眼レフのような写りのよさではなく、持ち運びのよさと操作しやすさが何より必要だと考えた。
ところが、店頭のデモ機が、たまたまだと思うのだけれど、タッチパネルの調子がひどくて、あれを見せられてはさすがに二の足を踏んでしまう。店員も焦っていた。あれじゃ買えないのだ。しょうがない。
USBのハブを買ってきた。今度は7ポートあるやつ。コードレス化に踏み切れないのは、生来のものぐさのせいである。
7階のユニクロでダウンジャケットを買った。モンベルのマルーン色のヤツも何日か前に買ったのだけれど、とにかく安かったのでつい。モンベルの方がカッコも品質もいいけどね、家に帰って気がついて見ると。