星野源の語る松尾スズキ、太田光の語る向田邦子

 星野源オールナイトニッポン細野晴臣がゲストに来ていた。細野晴臣は映画『さよならアメリカ』が公開中なので、一時的に露出が増えているのだろう。鶴瓶さんとこのラジオでも話題になっていた。
 しかし、今回はその話題ではなく、星野源オールナイトニッポンのオープニングトークと、爆笑問題カーボーイ太田光のオープニングトークが奇跡的にリンクしていたって話。
 radikoで聞いているのでこういう楽しみ方ができる。
 星野源さんは、高校時代の闇の中で松尾スズキの演劇に出会った話。太田光は、三島由紀夫が自決した時に向田邦子が書いたエッセーの話。
 星野源さんが初めて観た小劇場のお芝居が松尾スズキの「マシーン日記」の初演だった。これは今でも再演されることがある片桐はいりさん主演のお芝居で、内容はちょっと放送では言えないような「惨劇」だそうなのだけれど、一方でこれがお腹が捩れるほど笑えるのだそうだ。そして、どうにも救いようのない終わり方をした後エンディングに、スライドで「人はどこから来てどこへ行くのか」とポール・ゴーギャンみたいな問いかけが映し出されて、何かしら哲学的な考えに浸ろうかなと思う間もなく「タコちゃんは海に帰ったとさ ー byあき竹城」という二枚目のスライドでサゲになる。星野源は衝撃でしばらく動けなかったそうだ。ちなみにタコちゃんというのは当時、海水浴場で溺れて死んだたこ八郎さんのことで、あき竹城さんは親友だったそうなのである。
 そうやってサゲをつけられてしまうと、一瞬先の哲学的な感じにはもう戻れない。笑いが、惨劇も哲学も綺麗さっぱり洗い流してしまう。そのお芝居を見て、大人計画に入ろうと決めたのだそうだ。「ドロドロしたものを抱えててもいいけど、出すときは面白く出そうよ」と言われた気がした。
 
 太田光は、自他ともに認める向田邦子のファン。最近も黒柳徹子向田邦子の番組を放送した。高田文夫さんからその放送の感想をもらって、ふと、そういえば、TBS紛争の間近にいたはずの向田邦子は、その頃何を書いていたのだろうかと探してみて、三島由紀夫の自決について書いた「水虫侍」というエッセーを見つけたそうだ。
 ちなみに、以前ここにも書いたか、三島由紀夫は、自決直前ころのインタビューで、「陸軍の暗い情念」が好きだと言っていたが、当時は戦争の実情があまり知られていなかったと思う。「陸軍の暗い情念」などというその言葉自体が今から見ると笑える。
 当時、TBSから「水虫侍」というコントの執筆を依頼されていた向田邦子に、番組のディレクターから電話がかかってきた。締め切りが明日なので催促の電話だろうと身構えて聞いたが、「テレビを見てください」という。ちょうど三島由紀夫が自決した日でテレビはそのニュースで溢れていた。「すいませんけど、いま、憂国だの切腹だのはまずいんで、『水虫侍』はボツということで」となったのだそうだ。
 「水虫侍」で、三島由紀夫の「暗い情念」がみごとに笑いに転じている。太田光は、改めてそこに感動していた。

 『三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜』で、反知性を表明していた三島由紀夫だが、反知性を表明するかぎりはバカになるしかなかった。だとしたら、もっと「面白く」やるべきだった。
 星野源太田光は、全然「畑が違う」人たちだと思うが、やるなら面白くやろうよ、という、そこで一致している。そこが頭ひとつ抜けてるところだと思う。